【 季節巡り日録 】/ 夏から秋へ 編 / 古道具・古民芸 庵 広藤紀志枝

かおりん しおね 足立汐音

  聞き手:かおりん 写真:かんちゃん 編集:しおね

 

秋は隙間のとき。

 

日中の暑さに先立って、朝晩はぐっと涼しくなってきました。

 

季節の移り変わるときに記事を書くことにしていますが、秋は一層、その変化を日々感じやすいような気がします。

 

ふっと気の抜けるような風に、夏の強い暑さで身体がくたびれていることを知る、次にやって来る寒さまでの「間」の二日間です。

 

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9月19日 (クモリ)

 

西条の冬は寒い。

私はこれからの季節を想像し、店の隅に丸められていてずっと気になっていた絨毯を見てみることにした。

 

 

「広げてみてごらん。でも楽じゃあないよ。簡単な仕事じゃないですよ!」

 

さっきまで「私ちょっと疲れたから休憩」と言っていた庵さんだが、絨毯があまりに重そうなのをみかねて、外に運び出すのを手伝ってくれる。

 

絨毯は暖かそうで、私はすぐにそれを気に入り、買わせてもらうことにした。

 

 

「きれいな雑巾で拭いたらいいよ。自分のだから、納得するようにやりなさい。」

 

ざっと拭いてみて、あんまり汚れてないように思ったので、私はもう今日にでも持って帰ろうと思っていると、

 

「本当はもっとカーッと晴れた日に水でゴシゴシ洗った方がいいんだけどね。

絨毯用の洗剤があるでしょう、ホームセンターとかに。スプレーなんかのもあるかもしれない。」

と庵さんが言った。

 

 

「そんなのがあるんだ、見つけたら買ってみます。」

 

私は本当に自分が買って洗う気はしないものの、一応返事をする。

 

「洗剤はこれじゃ強すぎるような……。オシャレ着洗剤がいいと思うんだけど。」

庵さんは道具置き場の洗剤をゴソゴソと引っ張りだし、まだ考えている様子。

 

「手洗い用の石鹸でも大丈夫ですよね、きっと。」

と私が言うが、

庵さんはまだ「初めの1週間くらいは気をつけなさいよ。」とか言いながら、駐車場に広げられた絨毯を見ている。

 

 

そしてしばらくして、

「今からでも水で洗ってみる?」

と言うので、私はどっちでもいいかなと思いながらも、

「うーん、じゃあやってみます。」

と答えた。

 

 

「洗剤ならコンビニにも売ってるよね。ぐずぐず言ってないで行ってこよ!」

庵さんは張り切って店を出て、コンビニでシャンプーを買ってきてくれた。

 

まず全体を水で濡らしてから、庵さんがシャンプーをかけ、私は裸足で絨毯の上に乗っかり、たわしでゴシゴシ擦る。

 

 

水をかけてみると結構汚れていることがわかり、洗い上がった絨毯は寝転がると気持ちよさそうで、私はもっとそれを気に入った。

 

「やっぱり洗ってよかったね。まあいいか、で使っているうちに、汚れが気になったりすることもあるし。」

という庵さんの言葉に、

 

「確かに、自分だと我慢すればいいかなーってなります。」と私は納得したように答える。

 

 

「水をかけて、自分の納得するようにやりなさい。」と言われ、

シャンプーの泡を流していると、常連さんの車が入ってきた。

 

私が「もういいかな。」とホースを片付けようとしていると、

 

「いや、まだよ!もうちょっと角の方流した方がいいんじゃないん。まだ泡が出るじゃろ。中途半端は嫌いじゃけん。」

と常連さんが止める。

 

使う本人よりなぜか気合が入っている二人に監督されながら、はい……と私は作業を続ける。

 

「自分のだったらこんなにしてないよね、と思う。」と庵さんは笑っている。

 

 

それから水を切るために寝かせた梯子の上に絨毯を広げる。

 

「梯子のサビがついたらいやかなと思って。」とか、

「まっすぐに置いた方が美しいと思うよ。」

とかいった二人の指導を経て、その後まるまる五日間、絨毯は干された。

 

私はもっともっとこの絨毯のことを気に入って、庵さんは

「この絨毯は私も図柄が気に入って持って帰ったんだわ。見てすぐ、好き、と思って。

これがあなたのとこに行ってよかった。」と言った。

 

 

 

 

 

10月10日 (ハレ)

 

店の入り口で、庵さんはお客さんと布を広げている。

 

「かおりさーん、ちょっと見てー!」と庵さんの弾んだ声が私を呼ぶ。

 

「今布が見たいっていうから出してみたら、ほら。」

 

店に入って見てみると、庵さんが着ているワンピースとそっくりな柄の布が。

 

庵さんは先週私にしてくれた話を、お客さんにも話し始める。

 

楮の手すき和紙は、光で木の繊維が透けて見える。

 

 

「今から20年も前に県北の方の農家のお家を訪ねたときにね、今の私くらいの年のおじいさんがいて、

『わしはもう着んけえ、持っていきんさい』

って言って、男物の木綿の着物をくださったの。

私はその着物で服を作ろうって思って。

その布を見るたび、そのときのことがずっと残っているの。

自分だけでこんなにふくらむんだーっと思って。一枚の布でこんなに広がるんだーっておかしくて。」

庵さんはくすぐったそうに笑う。

 

私が「ふくらむって何がですか?デザインとか?」と尋ねると、

「ううん、何か、あったかーいもの。ほこっとしたものよ。」

 

 

「その着物は実際におじいさんが着ていたものだから、色褪せたところもあるんだけど。

でもそれがいいって思うの。

その服をまた、今着られる形に直そうと思って。

他に服もたくさんあるのに、これを直して着ようってしているの。おかしいけどね。」

 

皿の入っていた箱には藁の緩衝材が。家畜の飼料になるだけでなく、

かつては日用品や衣服、神事にまで、藁は重宝されていた。

 

新聞の日付から時間を考える。

 

それが庵さんが今日着ているワンピースなのだった。

 

そして、それと模様も素材も同じものが出てきたという。

 

 

 

庵さんは嬉しそうに話し始める。

 

「あの子にもこの前話したんだけどね、20年も前に県北の方の農家のお家を訪ねたときにね……」

 

 

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次回が最終回の予定です。

秋と冬の間に、また庵さんの様子を覗いていただけたらと思います。

 

 

営業時間:10:00〜18:00

営業日:木・金・土  ( 日曜日は要予約 )

住所:東広島市八本松町原8583

TEL:082-429-2701

 

 

ライターだより

この時期は特に光が気になります。

光で透けて見えるものや、ガラスに映って見えるものがきれいだなと思うことが増えます。

 

カメラマンだより

この記事の写真を撮るときには、季節や時間の変化、庵さんを訪ねた時の瞬間的な感情に集中して撮影しています。自分がその場で感じたものとかおりんの書く体験談が不思議と少し重なるところを感じます。毎度記事が楽しみです。

 

 

 

  【かいたひと】かおりん

ライター

三度の飯より米が好き。

 

  【とったひと】かんちゃん

カメラマン兼WEBデザイナー。大阪出身。 写真を撮ること、人と話すことがとにかく好き。 人が気が付かない魅力や楽しさを探すことが得意。