Yeastが生み出す私たちとまちの関係性/編集チーム対談

  しおね 足立汐音 あゆあみぱん

話し手:しおね    あゆ  あみぱん

 

まちやひとと関わる手段がひとつ無くなったとき、

「Yeastが自分たちに何を与えてくれているのか」を考えるきっかけができました。

 

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、広島大学の課外活動にはあらゆるところに影響が出ています。学生団体mahoLabo.も活動が限られ、ウェブメディアYeastは取材を控えております。

そんな中Yeastに集う仲間でじっくり話し合う時間を作りました。発足から2年間、ふんわりと共有していた「Yeastのらしさ」、私達が記事を通して得ていたものとは何だったのでしょうか。

その時間を振り返りながら、Yeastの編集チームメンバーで対談を進めていきます。

記事を通して、皆さん自身が自粛期間中どのように地域と関わってきたかを考える機会になればと思います

 

Yeastにとって取材とは何か

あゆ:まず、2人はYeastが活動できなくなって何が失われたと思う?

 

あみぱん:私は、まちを知る機会取材に関するスキルを得る機会がなくなったかなあと思うよ。そもそも、まちに出るのが良くないという風潮があったもんね。

 

しおね:私も結構似てる。まちに出るきっかけは確かになくなった。

東広島の中でも、大学から離れた場所へわざわざ出なくなった。今までは取材という名目でまちへ出ることができたからね。

あとは、自分と東広島に住んでる大人と心から繋がる機会も減っちゃった。取材の後に「面白い大人がいるから、会いに行こうよ!」って言われて新しい出会いがあったり、「ご飯行こう!」って言われて、さらに話が盛り上がったりすることもあったり。

そういうのが秘かな楽しみでもあったからな。

深い関わりを持てるのはインタビュアーの特権なのかもしれない

 

あみぱん:たしかに、取材という名目でお店に訪れるから、普段話せないようなこともお店のひとと話せると思う。「これ美味しいですね。」っていう会話まではできるけど、「なぜこれを作ろうと思ったんですか」とか、「なぜお店を開いたんですか。」という会話まで踏み込むのは取材じゃないとなかなか難しい。取材はそのひとを知る機会になってるね。

 

あゆ:それはそうだよな。しおちゃんが「心から繋がる」って言ったけど、たぶんそれが、「取材でそのひとを知る」ということで、ものを売るためだけのコミュニケーションじゃないよね。

やっぱり取材がなかったら、まちに出る機会は減るんだね……。これは単純な感想なんだけど(笑)やっぱりそうなのかな?

 

あみぱん:まちに出る機会というよりまちに関心を持つ機会が減ってるのかなあ。アンテナの張り方というか、「ここ取材したら面白そうかな」とか、「これ記事にしたら、どんなひとが読んでくれるかな」とか。そういうアンテナの張り方も薄れていって、まちへの関心自体が薄れていくというか。

取材をすると、まちの見え方が変わっていきます

 

あゆ:なるほどな~。ちなみに、取材によってできる大人との繋がりってどんなもの?取材によってできる関係性について、概念的な話だけど大事な気がするので言語化を頑張ってほしいな。

 

あみぱん:特殊な関係だと思う。取材先のひとは「今までこういう生き方をしてきた」とか、自分の中身を開示するわけだから、「中身を開示して、それを文章にしてくれた人」っていう目線で見てくれているのかなと思う。

あゆ:それ、あんま考えたことなかったかも!取材をする私たちが、大人のひとの生き方や考え方を知って、とか。東広島に自分のお気に入りのお店が増えるとか、そういう取材する側の目線ばっかり考えてたな。

確かにメディアって、そのひと自身の魅力というよりは、消費者のニーズを考えた記事が多いよね。Yeastが、そのひと自身に寄り添いますよっていうアイデンティティみたいなものを確立出来たらめっちゃいいなと思った。相手から取材してほしいっていわれるようになったらありがたいことだよね。

あと、特殊な関係を築くというところで「自分の中身を開示する」っていう言葉が出たけれど、自分を開示することの安心感もあるのかな。

あみぱん:取材って、初めて会ったひとに「あなたに興味があります」って言うことだと思う。「どうやって生きてきたんですか?すごいです」って。そうやって聞かれたら、びっくりすると思うんだけど、単純に嬉しいと思う。仲良くなりたいっていうのと一緒なのかな。

 

あゆ:なるほど、おもしろいね。大人のひとによっては、興味を向けられて怖いっていうこともあると思う。多分それは、「前向きに生きているひと」とか、「自分の将来に対して興味がないひと」って、自分をジャッジされると思ってしまうからかな。でも大人の人達の経験って、学生の私達がまだやったことのないことばかりだから、素直に入ってきやすい。しかもそう考えると、ライターがいっぱいいるって良いことだよね。みんなの目線でその人を切り取れるからさ。

 

 

Yeastが地域と繋がることを目指すのはなぜ?

mahoLabo.のコンセプトは、「東広島をまた帰ってきたいまちにする」。まちやひととの繋がり、学生と大人との関わりを大切にしています。Yeastでも取材を通してそのような機会を得ていますが、なぜ地域と繋がることを目指すのかについて考えていきます。

志和町の光源寺さんで合宿をしたときの集合写真

 

あゆ:2人は、学生と地域のつながりについてや、学生と地域がつながることによってどんな良いことがあると思う?そもそも自分たちが地域に寄って行っているわけだけど、それってなんでなんだろう?

 

しおね:私たちは大学に入る前に、どこの大学に行きたいかを選んだけれど、行った先のまちは選べなかった思う。だから、まちに対して何かの縁のようなものがあるんじゃないかな。ここに来たのも何かの縁だから、何もせずに過ごすより、この地域にいるからこそできることをした方が得だと思うな。その一つに、ここに住んでいる地域のひとと接するというのがあるかな。

あとは、実家みたいな特別な地域になるんじゃないかなと思うんだよね。時には自分の中身を知ってもらった人がいて、落ち着ける場所、お気に入りの場所もあるかもしれないし。実家が無理だったら、ここに来ようってこともあるかもしれない。

あみぱん:せっかく来たなら、その地域でできることをすべきっていうのは私も思ってた!せっかくなら知っておいた方がおもろいやんって。だから知ってほしいし、誇りを持ってほしい。

 

あゆ:せっかく来たならここで楽しもうっていうのが二人ともあったと思うんだけど、離れることが現実的だからそう思うのかな?

卒業する仲間を見送るときに「東広島を離れる」ことを想像する

 

あみぱん:私さ、「また帰ってきたいまち」は住み続けちゃいけないって、思ってたことがあった。また帰ってきたいという寂しさや危機感があるから、せっかくだから知ろうとか地域と繋がろうとか思うのでは?って。もうそこに永住したら「知りたい繋がりたい」って思わないのかもしれない。

 

あゆ:たしかに「また帰ってきたいまち」っていう言葉を掲げて活動してると住み続けるんですか?ってよく聞かれた。また帰ってきたいまちには「離れる」っていうことも関わっていそうだね。

住み続けることを選んだひとたちから、東広島を教えてもらっている

 

あみぱん:あと、地域のひととつながることの良さとして、地域が若者の力を必要にしているというのがあると思う。若者も活動したいと思っているし、地域のひとも学生の力を伸ばしてほしいとか、僕たちにはない力を出してほしいって言ってる。両方の期待が重なっているから、学生と地域のつながりが良いものになっているんじゃないかな。

地域の大人と交流した美酒1グランプリの準備の様子

 

しおね:なるほど……。学生の力とか、若者の力って何なんだろうね。

 

あゆ:これについて考えられたらすごくいいと思う。東広島は、まちと学生が関わる機会が多いよね。だから、学生たちがこういうことをできますよとか、大人にはないこういう面があるっていうのを知っておくことで、一緒に何かをするときにより良いものができそうな気がするな。

 

 

Yeastがもつ温かみとは

記事を読むと温かい気持ちになる」という声を読者の方からいただくことがあります。作る側も、Yeastの譲れない部分のひとつにサイトの「温かみ」というものがあると思っています。その温かみはどこからきているのか、なぜ私たちは「温かいもの」を良いとしているのかについて話し合っていきます。

 

 

あゆ:温かみや優しさはYeastが大切にしているものだと思うんだけど、その温かみを生み出しているものは果たして何だろう?

 

あみぱん:Yeastのロゴとかウェブの色味とか、デザインの部分かな。あとは文体や写真の色味とか。写真で言うと、この前、カメラマンが女性が可愛く移るように白くレタッチしてたけど、温かみのある色でレタッチしてほしいと、編集に言われたって話が印象的だな。

イメージはリネンや柔らかい生地のワンピース

 

あゆ:ウェブデザインは色味だけど、文章で伝わる温かみって文体?

それってどういうものかな。語尾なのか、視覚的に若干の色味があるのか、フォントなのか。

 

あみぱん:文体で考えると、こだわりを持って平仮名を使ってるよね。「まち」や「ひと」を漢字じゃなくて平仮名表記にしている。平仮名から出る温かみっていうのはあると思う。あとは、使う形容詞が温かいイメージのものが多いかも。

 

あゆ:しおちゃんはどう思う?

 

しおね:私は、単にお店の情報だけではなく、ひとに焦点を当てているところだと思う。記事の中に、感想や驚き、共感とか、感情が文章に入れ込んでいるから、温かみを感じさせるのかなと思う。

1枚目は東広島市のセントルマルシェの様子

豊栄」「福富」「河内」にあるお店が出店します。

単にお店が集まるだけではなく、ひとの思いが凝縮されています。

 

確かに、初めてウェブをのぞく人は、文章よりもまず写真やロゴが目に入るから、温かみの要因にはなっていると思うな。記事を読む読まないは第一印象が大事だよね。

 

あゆ:温かみの要因を考えてもらったところで、次は温かみを目指す理由、なぜそれを良いと思うかということを聞かせてほしいな。

 

しおね:これ、難しいな……。初めて出会うひとは、優しい人柄だと安心するし、これからも接したいと思う。それはメディアでも一緒なのかな。メディアが優しかったらひとが近づきやすいし受け入れてくれるから、温かみを良いと思っているのかも。

 

あゆ:あみぱんはどう?

 

あみぱん:「温かい」を表す「ほっこり」から考えてみたんだよね。「ほっこり」には、ほっとする、温かい、安堵するっていう意味があった。あとは、「温かい」っていうのはアナログなこととも書いてあって。「顔を合わせること」はアナログだよね。Yeastはオンラインの取材はせずに直接会いに行くから、記事を読むことでその人自身や人となりを感じられるんじゃないかな。

取材中のメモ

文字を書くこともアナログですね

 

あゆ:記事もひとによって大きくちがうよね。文字量とか、写真の入れ方とか。それも、温かみと関係してそうだけどな。

 

しお:うんうん。ライターが良いと思ったものをのびのび書いているし、それを受け入れる姿勢もYeastの中で整っているね。自分たちが良いと思うものに素直に向き合える環境というか。

 

あゆ:だからさ、「こういうのが温かいですよ」とか「ひとにフォーカスすることが温かいんですよ」っていうのを基準にしてライターの記事をジャッジするとか、ひとの人柄に対してジャッジするとかしてしまうと、Yeastの良いところは、もしかしたらなくなってしまうのかもと思った。どう思う?

 

あみぱん:う~ん。なんか気持ち悪くなりそう。基準を作ると。ある程度のルールはあるじゃんか。でも、ルールがなくて記事が乱立しすぎるのも良くないのかえ、難しいな(笑)。

 

しおね:Yeastに関しては言語化するまではいかなくていいんじゃないかな。言語化するよりも、皆がふわっとしたまま持っていた方が幅が広いから。言語化してしまうと、それ以外が許されなくなって、当てはまらない人が出てきたときに、どうなるんだろう。ふわっとしたものを共通認識で持っておいて、それを深堀りするために沢山話し合いをしてもいいけれど、言語化するまではしなくていいんじゃないかな。

 

あゆ:でも、あえて言葉にするなら「受け入れる」っていうのが大事なんだなと思うな。そこが無かったらしおちゃんが言った、「幅を持てなくなる」いうか。いろんな記事が乱立できなくなった時に温かみはなくなりそうと思った。

答えを出すのが難しいね……。これは永遠の課題というか、ずっと探していくものかもしれないね。

 

 

 

私たちは今、言葉になっていない、でも共通のYeastっぽいものをふんわりと共有しています。しかし、自分たちの魅力を伝えやすくするためには、意思をもって取材を組んだり言葉を選んだりしなければならない。「Yeastらしさ」を完璧に言語化することは難しいですが、それが本当に良いものかどうか、どうすれば、ひとに伝えられるかを探っていきたいです。

 

 

対談を終えて

 

しおね

Yeastは今年の10月で2年目を迎えました。取材再開まではまだ時間がかかりそうですが、少しずつ、まちのひとと関わる機会を増やしていきたいと思っています。その日まで応援よろしくお願いします。

あゆ

まちとの関係性や温かさを目指すことについて、これが正しい/正しくないということは難しいですが、せめて自分の言葉でしっくりくる「こういうのを目指したい」という思いを大切にしたいなと思いました。考える余地ありまくりな対談となりましたが、こういうことを地域のひとと日本酒を飲みながら話せる日がきたらいいなと思います。

あみぱん

取材が出来なくなって半年以上たちました。取材ができない状況を悔しく、残念に思うこともありました。ですが、mahoLabo.に当たり前にあった「Yeast」について、じっくりと考え、地域と関わる自分も見つめられる時間になったと思います。今回の対談を読んで、ずっと先の後輩たちが頷けるような、それに加えて自分の考えも持てるような、そんなメディアであり続けてほしいです。