聞き手:あんちゃん 編集:しおね
東広島市では、市内9つの地域の特色を紹介する観光ガイドブックが隔年で発刊されています。なかでも今年リニューアルされた「E-magazine」は、今まで発刊された冊子とは異なり広島大学の学生が制作に深く携わっているとのこと。
こちらから、東広島観光ガイドブックの取材・執筆に携わった学生の記事を読むことができます。
東広島を知ってほしいひとに届ける1冊「E-magazine」/東広島市観光ガイドブック 広島大学生編集部 | Yeast (maholabo.com)
大学生と地域との関わりあいから生まれた「E-magazine」。今回は、この企画の立案者である観光協会の石川さんにお話を伺います。
“大学生と”作ったガイドブック
― どのような意図があって、大学生とコラボレーションしてガイドブックを作るという企画に至ったんでしょうか?
このガイドブックはもともと、毎年東広島市内の大学に入学する新入生に配布されているものなんですね。二年に一回作り直してはいたんですが、学生には観光協会側が持っていないまちを見る視点があるのではないかと感じてまして。次の冊子では学生が生活する中で感じた東広島市の魅力を紹介したいと思ってオファーしました。
大学生たちによる取材の様子。
感染対策を徹底したうえで、出来るだけ多くの情報を集めるべく現地に足を運んだ。
― 石川さんから見て、この冊子の中で特にどのようなところに大学生の視点が生かされていると思いますか?
実は制作段階で、学生側のリーダーの佐藤さんが「東広島に暮らして数年の大学生は、市民と観光客の中間の存在だと思う」と言っていて。その考え方はおもしろいなぁと思いました。
一番驚いたことなんですが、八本松の記事を作成しているとき、学生さんに「住宅街に工業団地があるところが面白い」って言われたんですよ。長年東広島に住んでいて、私が全然考えたことのない観点だったのですごく驚きました。大学生の視点なのか、関わったメンバーならではの視点なのかはちょっとよく分かんないけど(笑)
E-magazineは”観光”ガイドブックと銘打ってはいますが、このようにみなさんが、西条などの目立った観光スポットがある地域以外で出す視点がおもしろかったです。例えば高屋でいうと、「地域文化」に興味を示されたりとか。観光とはちょっと違うかもしれないけれど、私たちが長く暮らしていると当たり前になってしまって気づかなかった部分をピックアップしてくれたかなと思っています。
「E-magazine」では、地元の小学校の校長先生など地域文化を次世代に伝承する活動をする方に取材している
― 住民の方が当たり前になってしまって気づかない部分を、他の地域から引っ越してきて今東広島で生活している学生だからこそ発見することができたということですね。たしかに地域住民と観光客の中間だ。
ほかにも、大学生の強みなど感じる場面はありましたか。
さっきはまちの取り上げ方についての大学生の強みでしたが、取材という面でいくと、大学生のみなさんがすごく当たり前のことを聞いてくれるのがいいなと思いました。
例えば西条が酒のまちというのは、ここに住むひとみんなが当たり前のことだと知っているんですよね。でもそれを一からきちんと取材して、もう一度みんなに伝えるっていう過程を踏んで記事を書いていて。
住民が当たり前と思っている部分も学生さんにとっては当たり前じゃないからこそ、より丁寧に取材して、より丁寧に伝えてくれたと思いますね。
― 当たり前のところを、一から。
以前ガイドブック作成に関わった学生がお米で有名な志和の記事の資料集めをするときに「まずお水から調べるんだ」と言っていたんですが、これにはとても驚きました。どこからゴールに繋がるか分からないけど、とにかくいろんなひとから話を聞いて、最終的にまとまっているんですね。これは地道な取材ができた大学生だからなのかなって思いました。
それが大学生だからか、佐藤さんや石橋さんだからか、分からないんだけどね(笑)関わってくれた子たちの力が本当に大きいです。
普段観光協会では全然接しないようなメンバーに取材ができたのも、観光協会だけではできなかった部分ですね。それこそ、米どころの志和のお水を研究する教授ですとか。
私たちにはそういう繋がりもなかったけれど、そこを学生さんたちが自分たちでどんどん取材先を開拓してくれたのはすごいなって思います。
― 独自のネットワークで地域に関わる学生が製作したからこそ、地域を新しい視点で切り取った「E-magazine」が出来上がったんですね。
コラボレーションだからこそ難しかったことも
― 以前の取材で佐藤さんと石橋さんから伺ったのですが、社会人のかたとの共同制作で大変だった点として、お二人がスケジュール管理の難しさを挙げていまして。絶対石川さんに迷惑かけてる~って(笑)
スケジュール通りに進まないかもしれないことは最初から覚悟していたので、思っていたより大丈夫だったかな。たしかに、取材開始の出だしは想定よりもかなりずれこみました。
でもこれは本来考えていたまちに長く滞在して聞き込みを重ねる取材ではなく、感染症対策を盛り込んだ取材ルールの検討を重ねたからですね。大学のサークル活動の方針や取材の方法など、初めての挑戦が多い中で、苦労しながらも進めていけたことは、 リーダーの佐藤さんをはじめ大学生の力だと感じています。
私が今回出産も控えていたので、ちょうど出産した時期に校了の時期が重なってしまって。産後一カ月の時期がちょうど最終校正のまっただなか。
― うわ~!!妊娠中から出産後にかけてこのお仕事をされてたんですね……。
ほんとうは出産よりも前に入稿したかったんだけれど、取材開始がずれ込んで制作のほうもずれ込んだので……。動き出すまでがなかなか大変だったけれど、動き出したら思ったよりは大丈夫でしたよ。
今はもう、大変だったこともだいぶ忘れてしまったけれど。無事にできあがったので(笑)
― 佐藤さんも石橋さんもとても気にしてらしたので……(笑)
ふたりに「石川さん忘れてたよー!」って言ってあげて(笑)
今回の取材はオンラインでの開催となった。中央下が石川さんだ。
昔の東広島を知る人にも届けたい
― 石川さんは広島大学のOGで、今は観光協会として東広島でお仕事をされているとお聞きしました。学生が多く、まちへの出入りが多い東広島ですが、昔の東広島しか知らない人たち、例えば石川さんの同級生や後輩に向けて、「E-magazine」をどうおすすめしたいですか。
私の世代は大学を卒業して何十年も経つので県外へ行った友達も多いんだけど、何年かに一回東広島が懐かしくて遊びに来る子がいますよ。そんな子たちに「E-magazine」を勧めるなら……「とにかく東広島は変わったよ」ということでしょうか。みんなが住んでた頃から東広島はこんなに変わったよっていうのを、これを読んで知ってほしい。
いろんな人の東広島に遊びに来るきっかけになってほしいから、この冊子を読んでほしいというのはあります。
観光協会としてこの冊子を作った点から言うと、これは大学生が作ったんだよっていうことも知ってほしいです。こんな風にまちに関わって、いろんなまちの人の話を聞きながら、執筆も写真も全部こなしてガイドブックを作ったのが「大学生」なんだよっていうのを、とにかく伝えたいかな。
― 大学生が関わってる「E-magazine」自体が今までにない画期的な企画であることや、特殊な成り立ちをしているものだという面も推していきたい、と……
東広島市外に出たお友達に「変わった」ことを紹介したいとのことですが、昔の東広島と今の東広島はやはり違うものですか?
東広島市には今9町あるんですけれど、2005年に合併する前は4町だったんですよ。だからもうまちの大きさ自体も変わっている。
個人的に東広島大きく変わったな~と思うところは、合併して安芸津が加わったことで東広島に海に面した地域ができたことかな。今では東広島で山から海まで、りんご狩りからみかん狩りまで、寒いところからあったかいところまで楽しめるようになったんですよ。
― 八本松、高屋、西条、志和の四つだけの東広島しか知らない人は、海がある安芸津まで東広島だよなんて言われたら驚きますよね!
昔の東広島を知る人にも東広島の今が載ってる「E-magazine」を見てもらえたら嬉しいなと思いました。
安芸津町の大芝大橋。地元の漁師さんに船に乗せてもらい撮影したという。
これからの「E-magazine」
― 完成した「E-magazine」を実際に手に取ったひとに、どのように読んでほしいですか。
まずはしっかり内容を読んでほしいです。学生の思いもあって、読み物に近い冊子に仕上げているので、文章もしっかりしています。
「E-magazine」をじっくりと読んで東広島への想像を膨らませてもらって、そのあとまちに遊びに出てもらえたらなと思います。
― 活字を読んでまちに出るっていうのは、とくに市から「E-magazine」を配られた新入生の子たちはできるかもしれませんね!
そういえば企画のはじめの頃に佐藤さんが「大学生がガイドブックを新入生のときにもらっても活用できていないところがあると思うので、これをうまく活用していけるような情報も発信していきたい」と言ってたのを思い出しました。
学生さんに限らず「E-magazine」を手に取ったひとがまちに飛び出すきっかけになるようなことをまだまだしていきたいなと思います。
― まちに飛び出すきっかけですか。
完成した「E-magazine」を使ってこれからやりたいことなど、ありますか?
既に東広島に訪れたことがあるひとや、住んでいるひとに向けたアプローチを考えていきたいです。例えば活字に慣れていなくて読み物に関心のないひとなどは、「東広島に行ってみて、楽しかったな」という実際の体験をきっかけにまちを知りたいと思ってくれるのではないか、またはガイドブックを作成したメンバーのことを知っていている地元のひとが、「大学生はどういうものを作ってるのかな」と興味を持ち始めるのかなと思っていて。
これは、ガイドブックを読んでまちについて想像してから行きたいと思ってくれるひととは逆バージョンですね。
佐藤さんからも話があったようですが、「E-magazine」を使ったイベントも開催したいんです。コロナ禍で難しい部分もありますが、ぜひ東広島市内のひとに読んでもらいたい、地元のひとにも読んでもらいたいという思いがあるので……しっかり作りこんであるのでね。
2月に「E-magazine」は発行されましたがまだまだ完成ではなくって、これを届けるという部分も大学生のみなさんの力を頂きながら進めていきたいなと思っています。
― 既にまちを知っていて観光地に行ったことがあるひとたちが、記事を読んで「ここ知ってる」ってなって起きる喜びや楽しさも、「E-magazine」の読み物としての魅力だな~と感じます!
「E-magazine」はまだまだ出来立てなのでね。それを地元のひとに届ける工夫はしていきたいな。
出来上がったら終わりではなく読者のもとに届けるところまでしっかり手をかけて、そこからみんなで一緒に育てていくガイドブックになればいいなと思います。
ガイドブックを頼りに、まちの探検に出て、 おいしいものを食べたり、山から海までの豊かな風景を満喫したり、みんなで一緒に体験できたり、 SNSで投稿したり、地域や年齢、職業等に関係なく「E-magazine」片手に集まれるような、そんなガイドブックに成長していきたいですね。
ライターだより
「E-magazine」はまだまだ完成じゃない、という石川さんの言葉が印象に残っています。
昔の東広島を知る人や新しく東広島にやってきた人、あらゆる人に「今の東広島」を届けてくれるこの本は、手に取ってもらうことで真価を発揮するのだと思いました。
動くこともままならない毎日が続きますが、いつかまちに出られる日のことを待ちながら、いろんなひとにこの冊子を開いてほしいなあと思います。
【かいた人】あんちゃん/ライター
愛媛松山育ち。 上を向きつつ、足元に気をつけて歩きたい。