聞き手:かおりん 写真:かんちゃん 編集:しおね
大学を卒業してから数年が経ちました。
全4回構成で始めた「季節巡り日録」は最終回を出しそびれてしまい、あっという間に数年が経ってしまいました。
卒業後も、私は地元に帰省する際には東広島に寄るようになりました。
今回は年末前の帰省の際に、半日東広島で庵さんと過ごした日の記録です。
mahoLabo.の活動終了と合わせて、寄稿させていただきます。
——————
———-
——
12月25日(ハレ)
艶のある赤茶色の瓦屋根の家々が並ぶ西条の街をドライブしながら、
お昼は庵さん行きつけの、広大のすぐそばにあるお好み焼き屋さんに行く。
西条にはお好み焼き屋さんが多い。
大学に来てから「広島焼き」を初めて知り、私にとってもお好み焼きは身近な食べ物となった。
“昔からお好みを焼くお店はあちこちにあったね。
何かの片手間でやっているお店が多かったかも。
おやつ感覚でよく食べてたよ。”
車の中では、近況報告をはじめ、最近どこに出かけたとか、庵さんとの共通の知り合いが今どこで何をしているかだとか、いろんな話をした。
相変わらず庵さんは電子機器が苦手で、一緒にスマートフォンの画面を見ながら私はメールの送り方を教えたりした。
庵さんは80歳を過ぎて、最近歳をとったと実感していると言う。
身体の不調を感じることも多いけど、もう数年は車に乗れるように頑張りたいと言う。
当時アルバイトをしていた場所には新しく学習塾が建ち、通学時に通っていた道は大工事をしており、道が大きく広がろうとしていた。
変わらず大学から最寄りのスーパーであるゆめタウンは賑わっていたり、
原付で何度も往復した景色が変わらず残っていたりで懐かしかったりする。
私は庵さんに今の暮らしぶりを報告しながら、自分が過去いた環境のいくつもを懐かしく感じ、その度に、かえって変わったことも多いと知った。
“「何がやりたいか」って、難しいことよね
私だってこの年になっても本当は何がやりたいかって言われたら難しい”
大学を出て数年経った今も、私はまだ自分のことでわからないことが多い。
仕事やこれからを考えて、不安になることもある。
“出会ったひとも経験も
それもあなたのものだからね
いろいろやってみたらいい
全部つながっているからね
それも自分のものになっているから”
八本松にある庵さんのお店に到着して、久しぶりに店内をぐるっと回ってみると、変わらずあるものと、新しいものが混在していた。
お店の中央にあった囲炉裏も居場所が変わったものの一つだ。
囲炉裏のあったところには、イギリス製の重厚で大きなテーブルがあった。
“これにも物語があるんよ”
と庵さんが嬉しそうににやりと笑う。
仕入れに行って一目で気に入ったこのテーブルは、とても重たかったがどうしても持って帰りたかったという。
“(テーブルについている)引き出しを開けると、見覚えのあるポストカードが入っててね。
カードに書かれていた年は、自分がヨーロッパを旅行した年と同じだったのよ。
当時は1ドル300円くらいの価値だったから、そうそう行く人もいない中で
こんな偶然が!と思ってうれしくなったの。
ああ、これで物語ができた!と思って。”
私がお店の掃除のお手伝いをしていたときも、時々庵さんはこのような物語を話してくれた。
ふと、そうした物語はいつも自分の中にしまっておくのか気になって聞いてみた。
“伝わる人とそうじゃない人がいるでしょ”
“でも、お店に来てくれるお客さんの中には、そういう店主の話を聞いたり空気を味わいに来たりする人もいるよね。
そう思うと、自分が東北に毎年仕入れに行っていたことも意味があったなと思うわ。”
庵さんのお店、ひいては庵さんの中にはこうした”物語”がたくさんある。
庵さんが見てきたもの、人との繋がりや出会いがこの場所のあちこちに詰まっている。
“まず行ってみたらいいのよ。
最初から深く入ろうとせんと”
はじめは「なんとなく」好きだなと思っていた古いもの。
庵さんのお店と、庵さんに出会って、私はもっと深く広い世界を知ることになった。
“全部つながっているからね。
それも自分のものになっているから。”
田口の急な坂を登り、気になるお店に自転車で片道1時間かけて行ったこともあった。
何度も足を運び、アルバイトをさせてもらうことになったお店もあった。
大学入学を機に暮らすことになった西条では、多くの人に育ててもらったような気がしており、私にとって第二の帰省先のような感じになっている。
私は今なお自分の人生を模索している真っ只中だけど、
私が卒業時に贈ったアルバムを時折開いて思い出してくれる人がいる
いつでも帰っておいでねと言ってくれる人がいる
懐かしい景色がここにあることにとてもほっとする。
西条の冬の冷たい空気は、田んぼのあぜの草を焼く良い匂いがした。
ライターだより
写真は4年前にかんちゃんが撮ってくれた写真です。変わったものと今も変わらずあるものが混在していて、あの時撮ってもらっていて本当によかったなと思いました。ありがとう。
編集だより
庵さんとの関係性が続いていることの勝手ながらの嬉しさと、懐かしい気持ちでいっぱいになりました。卒業後も迷うことはありますが、大学を出ても人生を模索してるのは私だけじゃないんだと、救われたような気もしました。Yeastの締めくくりにぴったりな記事を作ってくれたかおりん、かんちゃん、そしてそのきっかけを作ってくれた後輩に感謝します。ありがとうございました。
カメラマンだより
この記事を読むと当時自分が大学生として暮らしていた東広島の雰囲気が思い返され、とても懐かしい気持ちになります。社会人になって大変なことや思い悩むこともいろいろありますが、こういったmaholaboでの活動や地域の方との繋がりが今の自分の糧になっているんだと改めて感じました。庵さんの記事制作においては、1年間四季ごとに撮影させて頂きました。その中で話したことや庵さんの仕事姿は今でも鮮明に覚えています。ありがとうございました。
【かいたひと】かおりん
ライター
三度の飯より米が好き。
【とったひと】かんちゃん
カメラマン兼WEBデザイナー。大阪出身。 写真を撮ること、人と話すことがとにかく好き。 人が気が付かない魅力や楽しさを探すことが得意。
【最後に】
読者の皆さまへ
約7年間にわたり、Yeastを温かく見守ってくださりありがとうございました。
取材にご協力いただいた地域の皆さま、mahoLabo.に関わってくださった全ての皆さまに、改めて感謝申し上げます。
学生ならではの悩みに真剣に向き合ってくださったり、
大学の授業では知ることができない大切なことを教えていただいたりと、
あたりまえではない時間をたくさんいただきました。
Yeastは今年の5月でサイトを閉じる運びとなりましたが、掲載の許可をいただいた一部の記事につきましては
「note」というサイトで閲覧が可能でございます。
思い出していただいた際に、ぜひのぞいていただけますと幸いです。
<下記のURLより、閲覧いただけます>
東広島は、関わってくださった地域の皆さまのおかげで、
私たちそれぞれの「また帰ってきたいまち」になりました。
また遊びに行く際には、今までのように、温かく迎え入れていただけますと幸いです。
学生団体mahoLabo.メンバー一同より