「ただいま」の行き先をつくる /Koti-cafe 天満智徳・美千代

 

聞き手:ひかりん 写真:てるちゃん 編集:たかな

 

「行ってらっしゃい~!!!」

車に大きく手を振るお二人。

取材を終えた私達は少し照れながら「行ってきます」と手を振り返しました。

取材後、西条に「帰る」んじゃなくて「行ってくる」なんて気持ちになったのは初めてです。

今回の記事は、高屋町の国道沿いにあるログハウスからお届けします。

 

 

広々とした田園を背景に、可愛い木の小屋が立っています。Koti-cafeです。

日当たりのよいテラスから中に入ると、温かい木の色と鉄板で焼けるお肉のにおいが、わあっと私の元にやってきます。カウンターの向こうにはにこやかな店員さん。

店内には目を引かれるものがぎゅっと詰まっています。

 

木工品を扱う作家さんが作る小物やアクセサリー

地元の有機農家さんの野菜や加工品

中身が気になる雑誌

 

奥の黒板には手書きの文字で店名の由来が書いてあります。

あたたかいこの場所にはものだけではなくひとも集まってきます

 

— これがお店のコンセプトですか?

そう。調べていたら北欧の言葉で「我が家」っていうのがコティー。

そこにハイフンをつけると「~から」って意味になるらしくて。

「Koti-から」仕事に、学校に、遊びに、行くんよっていうこと。

— 「みんなの起点」って感じですね!

 

Koti-の起点

 

— どうしてお店を開こうと思ったんですか?

奥さんが高校生の頃からカフェを開きたいっていう夢を持っていたんだけど、周りの反対とかもあってなかなか踏み出せてなくて。

僕が三十年以上トラックの運転手をして、「定年までやった後は何をするんか」っていう疑問を持ち始めたときに、奥さんの夢に乗っかってみようかって思ったのがきっかけかな。

自分たちでやるなら定年もないしね。

 

 

— SNSでちらっと見たんですが、このお店はご自身で建てられたんですか?

うん。ほんとに最初の基礎から。いろんなところで土地を探して、ここがたまたま譲ってもらえることになって、そこから。

奥さんの同級生にたまたま独り立ちした大工さんとか基礎屋さんとか電気屋さん、水道屋さんがいて、みんな友達同士で!

そこで工事をしてもらって、無理も聞いてもらいました。

— みんな友達だったんですか!

そう、本当にたまたま!

電気屋さんが2人とかじゃなくてみんな別々のお仕事だったのがすごいよね。

― 「お店を建てちゃったんだ!」って思ってたんですが、そんな偶然があったんですね。

ほんと偶然だったよ。建てる時には僕の同級生もちょっと手伝ってくれたり、そんなつながりもあって。

 

ほんといろんな人に助けられてできたもんじゃけえ、大事にしていかんといけんね。

 

— メニューに地元の食材が使われていますが、それも何かつながりがあったんですか?

うちの奥さんがパン屋さんの奥さんと同級生で、パンはそこにお願いしようと思ってたんです。今使っているブリオッシュっていう種類のパンはなかなかハンバーガーには使われないんだけど、何回も何回も試作をしてもらって、やっとバンズとして形になって。

ネギバーガーのネギも、お店で出すデザートをお願いするために知り合いのケーキ屋さんに行ったときにたまたまもらって知って。

食べてみたら、もうすっごく美味しくて、「これ、ハンバーガーに使えんかね?」ってお願いしました。

 

ハンバーガーの中身はどれもこだわりの食材

絶品!!

 

— お店もメニューも、偶然の出会いから生まれたものばかりなんですね。

お店やご自身が大きく変わった!と思うような出会いはありましたか?

もうずっと特別な感じですね!

その時その時で出会ったことは全部勉強になるし、出会いもあれば別れも当然あるわけで、仕事で近くに来られても転勤で県外に行かれるとか、そういう別れもある。

でも、また新しく「ちょっと勇気出して来たんよ」っていうお客さんと仲良くなることもあるし。

これが!っていう特別なものはない。

(全部が特別か……)

出会いについての質問で別れの話になるとは思いませんでした。移り変わる時の中で出会うひとと別れるひとがいるけれど、その時々でいつも自分の傍にいるひとのことを大事に想っているからこそ全部の出会いを特別だと言えるんじゃないかな。

自分にとっての特別な出会いについて考える時、多くのひとは、今一緒にいるひとや青春時代を一緒に過ごしたひとなんかをぱっと思い出すのではないでしょうか。そんな「誰か」ではなく「みんな」が一番に出てくるお二人は、交わってきたひとの数もその思いやりの深さも私が知っているよりずっと大きい気がします。

 

 

― 出会いは、もうみんな特別なんですね!

Koti-のコンセプトは「我が家」でしたけど、ここで出会う家族ってどんな存在ですか?

ありきたりですけど、本当に大事なもの。

本当の家族はちょっとしたことで喧嘩になったりもするけど。

他人同士の仲でも、常連さんたちはお互いのことをKoti-ファミリーって呼んでて、それも家族だしね。

やっぱり大事なもので、本当に大切なものっていう感じかな。

 

これまでとこれから

 

たくさんのひとと、そこにある出会いでできたこのお店。

これからどうなっていくのでしょうか。

— これまでお店をやってきてよかったことは何ですか?

いろんなひとと出会えたことかな。

奥さんに夢があって、それを実現するのが僕の夢になって、それが両方とも叶ったわけじゃけえ、やりたいことができてるんだったら一生懸命泣きごと言わずに頑張ろうね、って思ってて。

時間はかかったけどね。

このひと(奥様)が全然諦めてなかったけんね。

諦めなかったら夢はかなうと思うんよね。

 

失敗することもつらいこともあるし、試作が全然うまくいかないときもあるけれど、一生懸命やっていればひとは見てくれるし馬鹿にされることもない。

あとはもう、一生懸命笑顔でやっとれば、何かがついてくるんじゃないかっていう話。

— その、ついてきたものが偶然の出会いとかなのかもしれないですね。

そうですね。ありがたいことに。

じゃけ、手を抜くのは本当にしちゃいけんよってよく話しとる。

おいしいものを食べてもらって、飲んでもらって、笑顔になって帰ってもらう。それが一番!

— これからこのお店をどんな場所にしたいですか?

本当に今のまま。思っていた状態に近づいとるんじゃないかと思う。

— 思っていた状態というのは、ここに来たお客さんと交流することですか?

そう!来た人みんなが仲よくなってもらって、ここに話しに来てもらいたい。

仕事でしんどいとか学校で疲れたとか、嫌なことがあっても、ここに来て僕らや他のお客さん、常連さんとも話して、笑顔になって元気になって帰ってもらうっていう、それだけ。

 

 

美千代さん)本当に。やってて楽しいことはお客さんが「ただいま」って帰ってきてくれることかな。

お店に来てくれると帰ってきてくれたって僕らも思うし、お客さん側も帰ってきたよって言ってくれる。

いつも「また帰ってくるね」に、「いってらっしゃい」って送り出してる。

「ただいま」

を言う場所には、「おかえり」と待っているひとが必要です。

迎えてくれるひとがいること、そんな居場所があることに救われることが何度もあります。

そして、私もおかえりと誰かを迎えるひとになりたいです。

おかえりをくれるひとは、いつもそこにいて、そこに居なかった時のことまで聞いて受け入れる思いやりを持つひとなのかなと感じました。

 

Koti-cafe

■住所 広島県東広島市高屋町造賀2498-4

■営業時間 8:00~18:00(ラストオーダー17:00)

■定休日 水曜日

■TEL  090-3173-4073

■SNSアカウント https://www.instagram.com/koti.cafe

 

ライターだより

大事なひと全員に変わらず大きな愛を伝えることは難しいですが、持てる時間が限られた中で、いつも自分の目の前にいるひとを一生懸命に思いやることがとても誠実だと感じました。

出会ったひとりひとりに誠実な姿勢で向き合うお二人の周りにはいつも温かいファミリーがいて、私もそうなりたいです。

カメラマンだより

家族。いろんな形があると思います。きっと人それぞれだと思います。

そんな中、僕が今回取材した国道沿いのカフェでは、オーナー夫妻とその家族が、満面の笑みで一緒にいる時間を楽しんでいました。

編集だより

離れているひととつながり続けるには今できる限り全力で相手を愛する必要があること、笑顔で行ってらっしゃいと言う勇気を持つというのは思いやりのひとつであることを知りました。

皆さんはこの記事を読んで誰のことを思い浮かべましたか?

 

【かいたひとひかりん/ライター

じゃ県を愛するよくばり星人。
多すぎる夢を語っては忘れ、また生み出している。
Instagram→dekohikaru1274 
Twitter→@dekohikaru

 

【とったひと】てるちゃん/ カメラマン

広島県出身で、初恋の車であるトヨタの80スープラが欲しくてたまらない大男。

特技は食べることとぼーっとすること。

         Instagram→terumi1386