聞き手:こと 写真:てる 編集:あかりん,あんちゃん
グラスやジャグ、扇風機、黒電話に、おもちゃ。
いたるところにレトロポップがちりばめられた色鮮やかな店内。
どこを見ても何を見てもかわいい!がとまらず、その空間にいるだけでなんだか元気をもらえます。
今回お話を伺うのは河内町にあるカフェ『けさランぱさラン』の店主、前田理佳さん。
お店は2年前にオープンしました。
― けさランぱさランを開く前は、尾道のカフェで働いていたと聞きました。
そう、飲食の仕事を12年やってたんです。栄養士をしたり、牧場のカフェで働いたりしてから、前職である尾道のやまねこカフェに。すごく狭いお店なのにお客さんがぎゅうぎゅうに集まったり、店内展示も月に1回変わったり、アーティストのライブイベントがあったりしました。そこで、カフェがひとを勇気づける場になると思ったし、イベントを開くことで異業種の方といろんな話ができるのが面白かったです。こんな感じで、ジャンルを変えながら、ずっと「食べる」ことに携わってきました。
地元河内でカフェを営むこと
― 前田さんの地元は河内だと伺いましたが、けさランぱさランを河内で開いたことと関係していますか?
住んでいた西条か働いていた尾道でやろうと思っていたんだけど、なかなか場所が見つからず。
そんな時、前にこの場所でお店をやってたおばあちゃんが次に入ってくれるひとを探していて。
お店をしていた30年間の思い出があるから、気が合わんひとには譲りたくないって言われてたんだけど、そのおばあちゃん、昔尾道に住んでいて、私も尾道が好きだったから話が合って。私を選んでくれた……っていうのか。譲りたいって思ってもらえたのは、嬉しかったです。
まさか地元でお店を開けると思っていなかったのでびっくりです。
河内でカフェを開くということは想定していなかったということですが、お話の中で、前田さんの地元河内に対する強い想いを節々に感じました。
お店の常連さんは年齢層が広く、若い方やレトロポップ好きの方が来たり、地域のおばあちゃんが農作業後に女子会をすることもあるそうです。けさランぱさランは地域に愛されるカフェのようです。
前田さんは常連さんとの関係をはじめ、お店ならではの地域とのつながりをつくるだけでなく、ボランティアで”いけいけKOCHI”という団体を立ち上げています。そこでは、河内でイベントを開いたり、河内の盆踊りを復活させたりすることを通じて、活性化に力を入れています。
― ”いけいけKOCHI”を作ろうと思ったきっかけはありますか?
河内を盛り上げたいっていうのは、自分が友達に言い始めたんですよ。どんどん人が減って行く状況に対して、このままじゃいけんなっていう気持ちがあったから。そしたら友達も、「私もそれ思っとったよ」って乗ってくれて。一度河内から出たけど結局河内が良かったって戻ってきてた子だとか、似てる思いを持った仲間たちが”いけいけKOCHI”で活動しています。
河内に戻ってきたのも何か運命があると思うんですけど、店の常連さんやお客さん、カフェが盛り上がるだけでは河内の活性化にはならないと思うんです。自分のお店だけじゃなくて、河内を盛り上げてなんぼだって感じです。
いけいけKOCHIの宣材写真をいただきました
右上の前田さんはレモちゃんというキャラクター
メンバーそれぞれ持っている野菜に由来するキャラクター名で活動しています
いけいけKOCHIインスタグラム https://www.instagram.com/ikeikekochi/
「人生今が一番若い」
― カフェや”いけいけKOCHI”での活動の話を通して、前田さんはパワフルで行動力がある方だなという印象を持ちました。私は何か新しいことを始めたり、挑戦したりしようとするときに不安や抵抗があります。前田さんの行動力はどこから生まれていますか?
あんまり悩むことはないんですけどね。人生で今が一番若いから、今やらんとプラス1日だとみんなに言っていて。明日に先延ばしするだけでも1日分歳をとっちゃうからどんどん遅くなっちゃうってことで。ひとって思ったときにとりあえずやった方がいいと思ってるんですよ。
どうやったら行動できるかというよりも、一つ一つやっていく。悩む前にすぐ相談。だけどその相談は、前に進むこと前提の相談で、前に進むためにどうしていくかの方法を考える時間。私も発達途上なので、そんなことの繰り返しで全然進んでいないこともあります。
高校の時からずっとやりたいと思っていた飲食の仕事を、今やっとできているけれど、まだゴールではないと思ってて。私もみんなに相談しながら実践中です。
このお店のDIYもまだ途中だけど。外にある茶色のいすも、とりあえず目が届くところに並べておいて、時間が空いたら色を付ける。分かんないことは常連さんとか地元の大工さんとかに全部相談して、自分ができる範囲でやってみる。
とりあえずやってみる。相談をしながら、常に前を見て進む。そんな印象を受け、前田さんへの憧れがさらに増しました。
自分で塗装した壁をはじめ、カラフルな内装は前田さんのレトロポップ好きから来ているそう。
そしてその色の鮮やかさから元気をもらって帰る人も多いといいます。
元気をもらえる場所
― カフェを営む上で大切にしていることはありますか?
「元気にすること」が一番にありますね。私の髪の毛が変わっただけで、それを見にわざわざ来てくれる常連さんもいますし。来ただけで元気になれるとか、笑っちゃうとかそんな感じでいいんかなって思ってて。なんか面白い場所でいいんですよ。
お店に来てくれた人が元気になれる場所だったらいいかなっていうのが一番ですね。
明るいイメージを与える髪型がトレードマークになっているそう
今のピンクの髪色も鮮やかで元気をもらえます
あと、栄養や食材にこだわってメニューを考えてます。もともと栄養士をしていたこともあって、自分がサポートできるのは「食」だと思っていて。それにこんなに長く飲食に携わっていたら、体にいいものしかプッシュできなくなってしまったんですよね。
やっぱりお客さんには健康でいてほしくて、「ここに来たけん、元気になったよ」って言ってもらいたいです。普段食べん肉や苦手な野菜もここでなら食べられるって言うお客さんもいて、元気をサポートできてるのかなって思います。
市販のコーラなんて普段飲まないおばあちゃんが、ここのなら飲んでくれるとか。そういう初めての体験もして欲しいですね。
おばあちゃんも飲んでくれるという自家製のヌーノコーラ
― 「食」にこだわるという点で、苦手でも食べられると好評の野菜は仕入れ先にもこだわっていますか?
野菜とかは、おじいちゃんおばあちゃんがやってる市場で買ってます。
お店をオープンする前から、毎週顔を見に行ったりしてました。市場に足を運ぶと作ってくれたおじいちゃんたちのことがわかるから、自信を持ってお店で提供できます。
あと、フードロスをなくすために、少し傷んだりしているものも買うようにしています。多少見た目が悪くても、おいしく調理することができるので。
そんな風に野菜が売れるための提案をしたり、野菜の調理法をお互いにアドバイスしあったりもしてます。提案するときは年が離れてる分、自分のおばあちゃんにお願いするみたいで言いやすいです。リスペクトもありつつフランクな感じで。
提案をしていると、だんだん向こうも積極的に作ってくれるようになって、今はほんとにいい関係です。
河内のおじいちゃん、おばあちゃんたちもやる気になって野菜を作ってくれるというのは、みんなで「河内を盛り上げる」ということにもつながっている気がします。
― 野菜を作ってくれるおじいちゃんたちと親密な関係性を築いている前田さんは、ひととの距離の取り方やコミュニケーションをとるのが上手なんだなとお話を聞いていて思いました。
そうなんですかね。もともと人見知りのあがり症だったんです。
だけど、牧場で働いていた時にラジオに毎週出ることになったんです。その時にこれはチャンスなんだって思って。毎週しゃべるようになると、しゃべった方が楽なんだとかわかってきて、だんだんしゃべることに慣れてきました。
それもなかったらあがり症のままだったと思います。リハビリですよね。人生。
「人生リハビリ」という言葉からは、前田さんのどんどん成長していきたいという野心をひしひしと感じました。
そんな常に前を見て進み続けている前田さんに、今後の展望を伺ってみました。
― 最後に、今後したいことを教えてください。
料理はもちろん、それ以外でも自分の内なるものを形にしていきたいなと思います。
元々絵も描いてたけど、最近全然描けてないから描きたいです。あと、毎年河内で写真を撮ってもらったりもしてたんですよ。今年はまだだけど。それを写真集とか被災地カレンダーとか、ちゃんと形にできたらいいなとかも思ってたり。
そんな感じで表現的なことで、自分の内なるものも、河内も発信していきたいです。今も私が面白そうだから来たって言ってくださる方もいます。表現することでお店に来るきっかけが今以上に増えて、最終的にはお店だけじゃなく河内を周って楽しんで帰れるようになると面白いかなって感じです。
私の発信が河内の案内所的なものになればいいかなとも思ってます。
好きなレトロポップをお店の内装で表現すること、明るい印象を与える髪型でお客さんと楽しくお話したり、体によいものを提供することで、心にも体にも元気を届ける。そのどれもが、自分の好きなものや「思い」を形にすることと言えるのではないかと思います。
そして、「やっぱり河内がいい」「お店だけでなく河内全体で盛り上げてなんぼだ」という言葉から”いけいけKOCHI”の活動を通じて、河内を盛り上げていくという思いの強さも感じました。
住所:広島県東広島市河内町入野2578-1
営業時間:平日・土曜 11:00~16:00(L.O 15:30)
日曜 11:00~14:00(L.O 13:30)
定休日:火曜日、その他不定休あり
連絡先:082‐437‐0770
SNS: https://www.instagram.com/kesaran_pasaran_cafe/
ライターだより
初めてお会いした時から「パワフル」という印象がありましたが、お話を聞いているとそのパワフルさの中には誠実な人柄があることに気づきました。だからこそ、やりたいことに向かって進むときに素敵な仲間がついてきてくれたり、常連さんや地域の方々とも親しい関係が築けたりするのかなと思いました。
そんなパワフルで、自分のしたいことを形にするために前に進み続けている前田さんは本当にきらきらして見えました。
カメラマンだより
お店の中には今まで見たことないものがたくさんあり、すべてが刺激的な光景でした。そんな魅力的なお店の店主さんは、僕たちが忘れてはならない、「何事もやってみる」という挑戦心を持っていらっしゃる、素敵な方でした。
編集だより
あかりん:今回は取材後の編集を担当しました。「ひととまちに元気を」を体現されている前田さん。一歩ずつ前に進む力をもらいました。
あんちゃん:「人生今が一番若い」この言葉に、新しいチャレンジの前にいつも立ちはだかる「今更やったって遅くない?」という気持ちを打ち破るパワーをもらいました。動きながら考えて、毎日自分をアップデートしていくことを楽しんでいる前田さんの姿勢はとってもかっこいいです。
【かいたひと】こと/ライター
山口県出身。
気分屋。田舎のゆっくり流れる時間が好き。
【とったひと】てるちゃん/カメラマン
広島県出身で、初恋の車であるトヨタの80スープラが欲しくてたまらない大男。
特技は食べることとぼーっとすること。Instagram→@terumi1386 Twitter→@terumin1386