描家が地域に与える価値とは、暮らしの中のアートとは。/ 原新太郎

   

聞き手:かんちゃん 写真:ゆーた 編集:あゆ

 

今回は広島大学出身で現在東広島市の河内町を拠点に絵やインスタレーションを展開し活動しているアーティストの原新太郎さんに取材させていただきました。

僕は普段、mahoLabo.や、東広島市の企業や東京の企業を介して撮影の仕事をしているカメラマンです。

仕事やプライベートで写真作品を作る中で、僕の撮りたいものは何だっけ、僕はカメラをなぜやってるのか、と迷い込むことがあります。今までイベント等で少しお話したことはあるのですが、ちゃんと話したことがなかった原さんからいつか、作品を作ることや、そこにこめらた思いなどを聞きたいなと思っていました。

それが普段カメラマンをしている僕が今回ライターに挑戦した理由です。

 

原さんの作品は額の中の絵だけではなく、建物の壁や看板なども多くあり、河内町の暮らしに根付いているものも多くあります。

まずはその作品の一部を原さんと一緒に歩いて見て周りました。

 

かんのくんと話したかったよ!と河内駅まで優しく迎えてくれた原さん

 

河内町にある作品

 

ー 原さんが絵を描こうと思ったきっかけはなんですか?

 

一言で言うと可視化。見えないものを見えるようにすること。

挨拶や感情を言葉にしても伝わらないことが、絵を通して伝わるようになった。

例えば、おはようって一般に朝のあいさつだから、夜起きた人には伝えるのは不自然だよね。だけど、俺は夜起きた人に伝える「おはよう」も欲しくて。

俺はその「おはよう」を絵で表現し直すことで、夜起きたその人にのみ伝わるコミュニケーションを作りたかったんだ。

 

ー なるほど、分かったような分からないような…

 

いや、わからないでしょ。笑

この前もまちの人に言われたもん、「あなた5年いるけど謎」って。

 

例えば、手書きか活字かの違いみたいなもの。手書きには、目に見えてない情報が多く存在しているよ。

筆の進み具合やにじみ具合でそのときの書き手の状態とか思いが伝わるじゃん。

実際に書いたもの(アナログ)の方が同じ役割を持つ平面的なものでも、活字よりは立体感があると思う。

 

あと、画家が絵を描くって崇高なイメージがあるけど、俺はすっごい嫌いなんだよね。

俺がやりたいのは、なんていったらいいんかな

「そのままを伝えたい。」うまく言葉にできないものをそのまま伝えたい。

 

取材時の僕を即興で描いてくれた。

 

自分に対してわかっている部分がはっきりしてきたけん、このタイミングで来てくれたのは嬉しいな。話すときが来たのかな、って感じなんよね。

 

ー 僕もお話しできて嬉しいです。

  ざっくりとした質問ですが、最近の原さんの活動はどんな感じですか?

 

最近の活動で一番アツいのは福山市でギャラリーを運営してることかな。

 

ギャラリーの写真

 

ー 取材前にフェイスブックで拝見させていただきました。

  かなり立派でお洒落そうなギャラリーでした!!

 

いやでもこれはあくまで活動なんだよね。

自分がどんな仕事でお金をもらっているか、その仕事を持っていること自体はアートじゃなくない?と思ってて。

絵を描いて売っている人は世界中に何万人にもいるわけで、それを活動ですっていうのは呼吸しているのと一緒でしょ。

アーティスト、言いかえればひとに感動やインスピレーションを与えるものとしては、絵を売ることは呼吸と一緒で、それを活動ですとは言えないかなぁ。

 

アーティストとして売れるものを作ることもできるかもしれないけど、俺は俺が関わっていくひとの中で作品が出来る方がいいかな。

それを暮らしの中で体現したいと思ってるよ。

 

確かに河内町の中でも原さんの作品はたくさんある。でも、ただ原さんの作りたいものというより、河内町の自然や人々と原さんの間に生まれたものの姿のように感じた。

まちにある作品

 

ー 関係性の中で生まれる感覚はすごくわかります。写真でもそのひとを撮ることで初めて成立する色や雰囲気が映し出されるような感覚はありますし、それもアートだと思っています。

 

そうそう。俺の行動原理は「アートをあなたの身近へ、感動をあなたに。

二つ目はまさしくそういうこと。

これはどんな仕事をするときでも大切にしている俺の行動指針みたいなもの。

 

まず、絵ではなく、アートっていうのは、絵に限らないから。俺は前NHKに出た時も、画家ではなく、描家って書き直してもらったんだよね。俺が表現したいものは絵だけでは表せないっていうことを知ってからはこうしてる。

 

それで、さっきのひととの関係性の中で生まれるアートと言う意味で、『(感動をあなた)に』ってしてる。

相手がいて、その上で相手のことをちゃんと知って、何が嬉しくて何がいやでっていうところをちゃんと理解した上で一枚の絵を描く。そして感動を届けたい。

行動原理の前半は関わる全てのひとに対してだけど、後半は相手との関係性の深まりが必要不可欠だね。

 

アートをあなたのみじかへ

 

ー なるほど。その上で、今、ギャラリーをやられているように原さんのアートの役割として知らない人にも何か伝えたいものもあるようにも感じます。原さんにとって、自身のアートが他人に与える価値はなんだと思いますか?

 

 

それが行動原理の前半になってくるんだけど、例えば、河内には郵便局に写真が貼ってあったり、毎年お祭りで体育館に河内のひとが作った作品が並ぶんだよね。

河内のひとは本当にアーティストばっかりだと思う。

そんなまちで俺がやりたいのは 、自分で作ったものに自分で価値をつける文化作り

 

今の世の中、芸術には他人の解釈で他人が値段をつけ、価値を決めているよね。

俺は、自分の作品の価値を一番知っているのは自分だと思うし、自分の作品や表現には自分で値段をつけたいと思う。そうやって、自己満足ではなく、みんなが自由に自分の表現をし、それに自分で評価できる文化があればいいなと思った。だから最近は表現料って言葉をよく使うようにしてる。

 

大学を卒業間近の4年生の春で休学し、休学中は高屋でカフェを一から運営した。卒業から3年間で売れる絵を作ることに集中し、次の9年でまた新しいより大きなプロジェクトに臨んでいる原さん。

 

目標と期日がはっきりしているし、ひとがしないこと、なかなか出来ないことにすんなり取り組める原さんはかっこいい。

 

ー 広大生にむけて思うことはありますか?

 

これは広大生というか、冠野君に言いたい事だけど、リスクではなくハザードをとって欲しい

 

原さんのいうリスクとは、予測可能な冒険。ハザードとは、予測不可能な冒険。

僕がなにかを吹っ切れていないところを見抜かれてるんだなと思いました。

 

厳しく言えば、冠野くんはカメラマンとしてできることを頑張っていると思うけど、社会人になれば求められたことを返すのは当たり前。そこでさらに求められていないこと、自分の興味があることにどんどん挑戦して行って欲しい。

 

俺の経験として、頼んでもらったことをやるのは、誰でもやっていける。けど、絵描かなくても何がしたいかを向き合った自分には、本当に失敗した時に本当にずっと助けてくれる人たちの存在がある。このひとたちにはハザードをとらないと出会えなかったと思うし、自分の可能性を狭めることになっていただろうね。

 

 

僕自身、描家として生活を始めたことで前より自分自身がはっきりしたなぁっていう感じがする。もし、自分の好きなことを貫かずにサラリーマンとかしていても、自分の足で立っているという感覚はないだろうと思うし、世の中にそういうひとが1人増えても何も変わらんだろうなと思う。

 

終わりに。

今回の取材、話したかったっていってくれて、僕も楽しくて、結局6時間ぐらい喋ってしまった。

頻繁に会う間柄ではない原さんが僕のことを気にかけていてくれたことが嬉しかった。

 

取材を終えて、改めてハザードをとることって難しいと思った。

自分の好きを信じること、自信がない自分からすれば、どうすればそんな自信が湧くのかわからない。不安はずっと残る。

でも僕は今回の取材で、こうやって応援してくれる方がいることを知り、少しずつやってみようという気持ちになりました。不安になったときにはこうして頼れる先輩がいることを思い出して。

 

ギャラリーの情報(facebook)

https://www.facebook.com/fukuyamatwist/

 

ライターだより

 今回の記事は広大生に限らず、多くの方に本当に好きなことにチャレンジする人の存在を伝え、チャレンジする人が1人でも増えて欲しいという思いで取材にのぞみ、また書き起こしました。でも実際は原さんに指摘された通り僕自身がまだまだ挑戦不足で、メンタル激弱な僕はこれからもいろんな不安と戦い続けるのだと思います。笑 だからこそ僕は行動至上主義的な意見を述べ続けたい訳ではありません。一人ひとりにあったペースで、無理なく自分が自分を好きでいられるような人が増えていけば嬉しいなと思っています。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

カメラマンだより

 原さんは取材する中でも時折絵で伝えようとしてくれました。言葉では伝えきることのできない見えないもの、伝えたいものを「そのまま伝えたい。」と言う原さんのお話を聞き、今までよりもいっそう絵や写真、音楽それぞれの伝えたいものをもっと感じ取りたい、受け取りたいと強く思いました。

 また、「求められたことをやって満足しない」ということ。ハッとさせられました。

 

【かいたひと】かんちゃん

カメラマン兼WEBデザイナー。大阪出身。
写真を撮ること、人と話すことがとにかく好き。
人が気が付かない魅力や楽しさを探すことが得意。

 

【とったひと】ゆーた(Yut@)/カメラマン

知らないところを探検するのが好き。もちろんカメラをつれて。
家ではクラシックギターを弾いたり、本を読んだり、寝たり。
Twitter → @Yh_photo