趣味に生きる、わたしたちのおじいちゃん/桃・りんごの吉本農園 吉本秀治

  

聞き手:しおね 写真:てる 編集:おはな

 

「袋掛けがほぼ終わりに近づきゆっくりと出来る時が多くなりました。夏休み前に時間が取れれば、又遊びに来て下さい。」

丁寧に袋掛けされた桃や、東屋で待つ山鳩の写真と一緒に、今年もメッセージをいただきました。

大学から南へ車で10分ほど。

国道を外れてしばらく行った先に、樹木の密集地が現れます。

 

 

 

ここが今回の取材先、黒瀬町にある、桃・りんごの吉本農園です。

 

 

農園の隅に立つ東屋

椅子に座ると同時に、10時の時報が鳴り響きます

 

 

農園の主、吉本秀治さん

 

 

5年前吉本さんは、西条駅近くで行われたマルシェに出店されていました。

そこに訪れた当団体の立ち上げ人は、「東広島でりんごを作ってるところがあるのか」と思い吉本さんに話しかけたそうです。

「農園にも遊びにおいで、このりんごあげるよ」というところから始まり、現在まで、メンバーの入れ替わりはありますが、吉本さんの東屋へおじゃましています。

 

― 前回お伺いしたときより農園は広くなりましたか?

 

今桃の木は、ここに10本あるんよ。

農園を始めて10年経っとって、去年が1,800個。今年は2,300個。

りんごは2,900個。りんごの木の本数は48本。

 

― すごいですね。木を増やしたんですか?一本の木になる実が増えたんですか?

 

両方じゃね。木は5年前からほとんど増えてないけども。

こんなかっこうで、記録しとるんよ。

 

携帯のメモ帳には、今年どの種類の桃とりんごが何個できたか全て記録されています

 

― これ全部吉本さんが記録されてるんですか?

 

自分が分からんようになるけんね。

もっとやりたいんじゃが、今はそこまでしかようやらんのんよ。

 

吉本さんの桃・りんご記録には、見たことのない名前が沢山ありました。いつも品種名を気にせず食べていたなあ、と思わされます。

 

 

研究しながらやるから面白い

 

 

― 「もりのかがやき」っていうのは品種名ですか?

 

品種名。ここらでは、「ふじ」と「つがる」と。何が多いかな。

「しなのゴールド」とか「しなのスイート」とか。

苗を取り寄せよるところが青森の原田種苗いうて、そこから送ってもらいよるね。

桃は、岡山の桃いうんはどっちかというとやわらかい。

ほいで、東北の桃は固いんよ。うちのは青森から取り寄せとるから、固い桃ばっかり。

ここらで桃をあげたら、「一週間待ったんじゃが、やおお(柔らかく)ならん」って言われてからね(笑)

まあこれ食べてみんさい。

 

 

これは梅雨時の桃で一番早い桃じゃからね。

どっちかというと、甘味が足らない。

 

実際に糖度を測るところを見せてくださいます

 

10.2度、低いね。12度はないと。

 

― これで甘くないんですか!?

 

昨日は孫が来たけど、「これは、あもう(甘く)ないねえ」って言われた(笑)

 

― お孫さん、さすがですね……。作り方はご自身で調べられるんですか?それとも教えてもらいながらですか?

 

教えてくれるんはおらんから(笑)

もう全部ユーチューブ。僕らの場合はね。

 

― 僕らの場合!?(笑)最先端ですよ!

 

あれが一番みやすい(簡単)、何するにもね。甘くする工夫もYouTubeで調べたんよ。

オルガミンいう、アミノ酸があるんよ。ブラジルで昔日本人が作り出してね。

それを花が咲いたときから1ヶ月、2ヶ月のペースでやりよる。

噴霧器で葉全体にびっしゃりとなるように振りかける。

 

― たくさん研究されてますね。

 

そりゃあ、研究しながらやらんとなんにも面白くない。

普通に作ったんじゃあねえ。

 

机には、果樹を育てるための本がたくさん積まれていました

 

 

農家ではなく、趣味

 

 

今度ね、エブリイへ出荷するんよ。全部スマホで管理してる。

値段を設定して、バーコードを自分で貼り付けて、

売れたらスマホに「今売れた」ってぽっぽっぽって連絡がくる。

リアルタイムで。

 

― 知り合いの方におすそわけをされているイメージでした。お店にも出荷されてるんですね。

 

基本は身内にあげるんよ。でも残ったら、腐らすのがもったいないからね。

趣味でやりよるから、力入れてお店に出そうという気はこれからもないよ。

あと、一度に実がなったらとても収穫しきれないからね、時期をみて品種を選んで、10日

おきに別の品種ができるようにもしてる。

 

分からないことは本やYouTubeで調べ、農園の様子はまめに記録し、時に戦略的に果物を育てる吉本さん。

趣味を極める吉本さんですが、農園を始められたきっかけは、いたってシンプルでした。

 

 

農園を始めたきっかけ

 

 

― どうして農園を始められたんですか?

 

もともとはいろんなりんごを食べてみたいと思って植えてみただけなんよ。

今まで聞いたことも見たこともないりんごを食べてみたいと思ってね。

青森にはあるけど、ここらでは聞かんようなのがいっぱいあったんよ。

 

 

じゃけ、最初は40種類くらい植えた。

1本か、多くても2本か。それをざーっと植えていった。

ほいでも、気温が合わんりんごがいっぱいあった。

最初はいろいろ調べて直射日光を和らげたりしてみたけど、難しかった。自然に任せて育てて美味しいものをつくるのが大事よね。

 

― 昔から吉本さんは、自分が経験したことのないことをやってみたいという気持ちがひとより大きかったんですか?

 

そうそう。僕は銀行員だったんだけど、出向で行った会社にコンピューターが入ってね。

あの頃はようやく支店長のとこに一台だけ入ったんよ。

そのときは、支店長がつつかん(操作できない)から、僕や周りの社員がやってみよったんよ。

そしたら面白くなってね、ずっとつつきよった。

 

― なるほど……。その影響でインターネットも使いこなせるようになったんですね!

 

そうなんよ。

 

農園をする前は、釣りが趣味だった吉本さん

銀行員時代は車の中に竿を入れて仕事終わりに夜釣りへ行っていたそう

 

 

趣味にかける熱は人一倍

 

 

そういえば以前、井戸を作ろうとしたんよね。最初は30m掘るのに100万円って言われたからやってもらったんよ。

そしたら、30mじゃあ水が出ん。ここらには40mくらいに岩盤があるいうんやが、突き抜けても出ん。

もうここまできたんじゃけえって掘り続けてもらったら95mで噴き出したわい。今度は反対に水が止まらんのんじゃ。

結局100万が280万になった。

 

 

 

趣味に生きる吉本さんのお話は愉快で、時間を忘れてしまいます。

 

 

吉本さんの毎日の楽しみは、朝一番に出迎えてくれるすずめと山鳩

多い時には13匹もの山鳩が吉本さんを出迎えてくれるそう

 

― そういえば、銀行員時代のご友人とはまだつながりがあるんですか?

 

うん、まだつながっとるよ。「真っ赤なリンゴ会」ってLINEグループがあってね、そのときの友人が入っとる。毎日メッセージを送るんよ、こうやってね。

 

少しだけ見せていただいたLINEには、毎朝7時に農園の報告をされている記録がしっかりと残っていました。

 

取材後。

「この後一緒に食べに出んかと思ったんだけどどう?」と食事にお誘いいただき、安芸津のお食事処で一緒にご飯を食べました。

海を見ながら吉本さんの昔のお話をひたすら聞いて、人脈の太さに驚かされたり、そのオチにびっくり、ひやひやしたり。

楽しい時間を過ごさせてもらいました。

 

まちに出て活動するためには、多くの地域のひととの接点を持つ必要があります。

学生によっては、全く知らない地域のひとと話すことがとても高いハードルになる場合もあります。

そんな中、5年間続いている吉本さんとの関係性が、そのとき農園に訪れる学生のちょっとした勇気になっています。

このような、地域のひととの有機的な繋がりを、これからも大切にしていきたいです。

 

 

おまけ(撮ったひと:かんちゃん・ももち)

いつかのお花見をしたときの様子

 

農園の基本情報

桃・りんごの吉本農園

住所:〒739-2501 東広島市黒瀬町小多田620

 

ライターだより

今回の記事完成には3年半かかりました。というのも、吉本さんの人柄を無理に言語化せず、エピソードを紡ぐことで自然と生き方や人生観が滲み出るものにしたい、という過去のライターの思いを引き継いで作成したからです。この記事はこれまで吉本農園へ訪れたことのある学生全員で作ったものだと思っています。

 

カメラマンだより

第一印象は、毎日の暮らしを楽しんで、自身の日常に誇りを持っていらっしゃるなと感じました。そんな取材を通じて僕も、自分の何気ない毎日の暮らしを周りに楽しく伝えられるようになりたい!!そう思えました。そして何よりも、これまでmahoLabo.との繋がりを大切にして下さった吉本さんに本当に感謝です!! ありがとうございます!

 

編集だより

大好きな「桃」の農園に惹かれて編集を担当しました。今回の取材では、桃以上にいろんな魅力を持っている吉本さんに出会うことができました。東広島に「わたしたちのおじいちゃん」を見つけられて、なんだか嬉しいです。

 

 

【かいたひと】しおね/編集長・ライター
 
山口県産。懲りない編集長
 
大学3年生から隔世遺伝により生粋の酒好きとなる。
 
 

 

【とったひと】てるちゃん/カメラマン

広島県出身で、初恋の車であるトヨタの80スープラが欲しくてたまらない大男。

特技は食べることとぼーっとすること。

         Instagram→terumi1386