聞き手:ひかりん 写真:ぐらふぃー 編集:しおね
東広島呉道路を黒瀬で下りて5分。
脇道それた田んぼの中に小さな看板が。
車を降りた坂の上、白い小屋が見えたら、そこが今回の取材先です。
オレンジの光が窓辺の陶器に反射してこちらに届きます。
CROSSE劇場開演です。
お店のオープンは7年前。もともと兵庫県で建築とインテリアの仕事をされていたお二人は、綾子さんのご両親と住むために黒瀬に移りました。そして漠然と、この土地で何かできたら良いなと思うようになっていたそう。
父の倉庫を見た主人が「ここが使えるんじゃないか?」と言ったのが始まりね。
綾子さん)オープンした日は、私の誕生日だったんです。もともと毎週金曜日から月曜日だけ雑貨店を開こうとしていたら、7年前の9月26日が金曜日で還暦のお誕生日だったの!
「これしかない!ここでやめたら、もうオープンしないんじゃない?」と思って、リフォームをすすめました。
リフォームの中でも設計や店内の棚作りなどは自分たちで行ったそう。
― お店の中は手作りのものがいっぱいですね。
綾子さん)そう。ポストカードは妹が描いているの。
主人が作る小物も販売しているし、私はドライフラワーを作ったりして。
それがCROSSEのオリジナル商品になっているんです。
「こういう風にできるんだ」って思ってもらえる提案をしています。
このスクリーンも最近作ったんです。
― 御主人さんは何を作るんですか?
敏夫さん)それを聞かれると困るね。椅子も作るし、ちっちゃい小物も作るし、コルク細工もするし、ワイヤーもするし。何って聞かれたらどれがメインか分からんくて。ただもの作るのが好きなだけなんですよね。
― もの作りはどこで知るんですか?
仕事の積み重ねかな。設計事務所のお手伝いで模型を作っていると「あいつは模型が作れる」って言われてコンペに出るようになって。そしたら模型の写真を見た住宅メーカーから作って欲しいものの依頼が来る。作っていくうちにちょっとずつレベルアップして、ものを作ることが楽しくなってくる。
綾子さん)コツも分かってくるしね。
― そうやってオリジナル作品につながっているんですね。
綾子さん)オリジナル商品以外は、器、かご、布もの、ガラスものが基本ですね。
全部自分が良いと思うものです。砥部焼なんかはすごく好きで。でもたくさんある中で、ちょっと自分の趣味と違うものもあるから、本当に良いと思ったものだけを置いています。CROSSEセレクトです。
敏夫さん)自分たちの場所だから、もう好き勝手してますよ。
花のアレンジや音楽をするにしても、発表する場所が欲しいと思うでしょう?うちらの場合はこの店がそういうステージ。お客さんが観客で、チケットを買う代わりにものを買って行ってくれるだけの話ね。
ここは全部自分のステージだから、好き勝手演技してたらいいわけよ。
綾子さん)うちに来て癒されますって喜んでくれる方がいて、究極は「住みたい」っていうひともいるんです。(笑)
「帰りたくない」とか「雇って欲しい」とかね。そういってもらえると、本当にやっててよかったなって思う。
敏夫さん)だから結局、癒しの場よね。
綾子さん)そう。癒されているひとをみて私達も癒されてる。
― お二人が暮らしの中で心がけていることはありますか?
綾子さん)そうね。今は母のごはんを私が作っていたりして。
お店も大事なんだけど、お母さんが一番優先なんですよ。
敏夫さん)まずなにが大事かって言ったら人が快適に暮らせることよね。その一番の一番がお母さんっていうだけです。
綾子さん)母が入院したりするとそっちが優先になるから、お店はいつどういう風になるか分からないんですよ。何かの原因で長期のお休みになることもあるかもしれない。だって、2人でやってるだけですからね。
― そうですよね。できる間はずっとお二人でお店を続けていくんですか?
綾子さん)始めたときはとりあえず10年やろうと思っていたけど、そうするともう3年しかないじゃん!だから、まだできるだけ頑張ろうと思ってます。
敏夫さん)なんでもそうだけど、やれる体力よりやるっていう気力が大事でしょう?その気力っていうのは、年齢で決まるんじゃなくて、自分がやりたいと思うことに一歩踏み出せるかどうかだと思う。
もう60歳だから、70歳だからっていう、「から」っていうのはやめればいい。まあはっきり言って、還暦からお店をやるなんて冒険だけどね。
後悔したくないからやろうと思ったんです。
敏夫さん)だから毎日が決断する記念日よね。やるぞって思ったときを出発点にすれば、できると思うんで。
先送りにするのは嫌ですよ。今日判断してやりますって言ったらもらえる仕事も、ちょっと考えて明日しますって言おうとしたら、もう他の人に頼まれるもん。
綾子さん)ちょっと無理してもやってみようって思うくらいの方が、乗り越えられるしね。最初からあきらめるのはもったいないですよね。
敏夫さん)みなさんくらいの年代の時は、動けるし、何しても文句を言われないし、失敗してもたたかれない。だからいろいろせんと駄目よ。
私も、友達がキャンピングカーを作るって言ったら、そこに泊まり込みで作りに行ってたし、おでん屋さんを作ったりもしたね。昔いろいろやったから、今なんでもできると思うのはあるね。
CROSSEレジ横の看板猫さん
CROSSEのお二人の決断(セレクト)はいたってシンプル。好きなものを見てもらって癒される。ひとの暮らしを一番に考える。後悔しないために冒険してみる。
進路を考えている時なんかは、「何が好きなのか見つけなさい」「良い選択をしなさい」と言われます。けれど、好きなものはそのうち分かってくると思うし、好きなことがあれば、それをあきらめるよりも、実現するために努力をする方がよっぽど楽しそう。いつかもっと大事なことができたら、またその時必要な決断をすればいいと思いました。
さて、今日は綾子さんのお誕生日。そしてCROSSEの7年目のお誕生日。
これも、お二人の決断の記念日です。
あなたは今日を何の記念日にしますか?
――――――――――――――――――――――――
【おまけ】
― 気になっていたんですけど、どうして店名はCROSSE(クロッセ)なんですか?
「黒瀬(くろせ)…クロッセ!」(笑)
― 『やっぱり…!?』
綾子さん)どうしようか悩んだよね。東広島は夜の星がきれいだし、黒瀬ってもう空がいっつもきれいなんですよ。それで「『空』にする?」とか、いろいろ考えたんですけど、やっぱり覚えやすいのがいいと思ってね。
でも、「だじゃれ?」って聞かれます。
――――――――――――――――――――――――
暮らしの雑貨CROSSE
○営業時間
金・日・月 10:00-17:00、土 13:00-17:00
○住所
〒739-2732 広島県東広島市黒瀬町津江5948
○電話番号
0823-82-4750
○ホームページ
http://www.crosse-kurashi.com/index.html
ライターだより
初めて行った時から、いつか取材をしたいと思っていたCROSSEさん。店内を見れば見るほど「この方たちは遊びの天才だ」と思わされます。こうした機会をいただけたことでまた新しい暮らしのヒントをもらって、我が家の窓辺はドライフラワーだらけになりました。
カメラマンだより
温かなオレンジの光につつまれてキラキラと輝く商品たち、そして好きが詰め込まれた空間でキラキラと輝くおふたりの姿が印象的でした。取材を通して、たくさんの素敵な言葉を抱きしめることに成功した記念日になりました。
【かいたひと】ひかりん/ライター
じゃ県を愛するよくばり星人。
多すぎる夢を語っては忘れ、また生み出している。
Instagram→dekohikaru1274 Twitter→@dekohikaru
【とったひと】ぐらふぃー/カメラマン
広島県出身|写真が大好き。音楽も好きです。