聞き手:ゆーき 写真:ゆーた 編集:しんじ&しおね
東広島は福富町。
自然豊かなこの町で、本業とは別に農業を営んでおられる原田賢志さんにお話を伺いました。
原田さんは農家としての顔を持つ一方で、農業に関する動画をYouTubeに投稿し、3.68万人(2020年3月現在)ものチャンネル登録者数を誇るYouTuber、通称“農チューバー”でもあるのです。
農業、そしてYouTubeとの出会い
ー 本業は自動車整備会社にお勤めということですが、農業を始められたきっかけは何ですか?
家の近くに新しい道の駅ができたから、何か出したいなあって思ったんだよね。
それで初めは近くの川で捕まえたメダカを売ったんだよ。
ー メダカですか……?
そう。そうしたら結構売れてね。
だから次はうちの畑でとれた野菜も出してみようかなって思って出してみたら、またこれも同じくらい売れて。そこから農業って利益が出るんだな、やってみようかなって思ったのがきっかけかな。
ー なるほど。原田さんは農業に関する動画を毎日YouTubeに投稿されていますよね。農業とYouTubeってジャンルが全く違うと思うのですが、この2つを結び付けようと思ったのはどうしてですか?
初めはうちの畑で取れた野菜を売りに出していたけど、人から畑を借りるようになってどんどん畑の規模が大きくなっていったんだよね。そんな時に、「あんた、日誌書きんさいや」って親に言われて。『去年のこの時にこれ植えたら上手くできた』とか記録しておけば、来年に生かせるじゃんって言われたの。
確かにって思ったけど、書くのが面倒くさくてやらなかったんよ。学校で勉強してるみたいじゃん?
ー そうですね(笑)
それで3年前の正月に暇だったけぇYouTube 見とったんよ。そしたらサンフランシスコに在住の、カメラとか日常を紹介するYouTuberを見つけて、これおもしろいなと思ったんだよね。
それを見たきっかけで今年はYouTubeを始めようって決めた。YouTubeをやるってよりは日誌代わりに自分が残す。で、誰かに見てもらえたらラッキーぐらいだったかな。
ー 農業の記録を残すためのツールが、YouTubeだったんですね。
そう、日誌だと書くのが面倒くさいけど、YouTubeなら楽しくできると思って。
原田さんの何かに取り組む姿勢には、ワクワクする気持ちが常にあるように感じます。
原田さんの1日
ー 本業、農業、YouTubeの3つを両立されている原田さんがどのような生活をされているのか知りたいです。
午前6時 | 起床、朝食を食べる。畑に行って作業。 |
午前8時 | 出勤 |
正午 | 5分で一度家に帰って昼食を食べる。 畑に行って作業。 |
午後1時 | 仕事場に戻る |
午後5時半 | 退社。畑に行って作業。 |
午後8時 | 帰宅。夕食。子供と一緒に入浴。 |
午後9時 | その日に撮ったYouTubeの動画編集 |
午後12時 | 就寝 |
冬はこんな感じだよ。じゃけえ、冬はすごくゆっくりしてる。
ー えー!これでゆっくりなんですか?お昼休憩の一時間すらも作業に行ってるなんて!
休憩する暇がなさそうですが……。
夏は4時半起きだからね。
ー すごい……。このようなハードスケジュールをこなせる秘訣とは?
好きだから。
楽しいからできる。しんどいしんどいってそれじゃあ面白くなくなる、強制的にやってるみたいでしょう。パソコンも好きじゃけぇやる。カメラも好きじゃけぇ買う。
好きっていうだけじゃけぇね。
ー 「好き」というシンプルな気持ちを原動力にして動いておられるんですね。
うん。でもシンプルの中でも、一つ一つは一生懸命ちゃんと考えてる。これやったらどうなるかとか、元はとれるかとかね。それをしないと成功はせんよ。
軽快そうに見えて、重たい一歩を歩んでおられる。
原田さんは楽観的なようで、実はストイックで堅実な方だな、と思いました。
ー これまで挫折された経験は?
日々挫折よ。
ー なんと……!日々ですか……!
うん。でもそれが大けがにならないように常に考えてやっとるけぇ何とかなる。
それを考えずにやったら修復できないぐらいの大けがになるからね。
今は日誌の役割とは別で、自分が失敗して大けがしそうになったことを最初に動画で紹介することで、初めてやる人が同じ失敗をしないように動画を投稿してる。
ー 自分の知識を他の人に還元してあげたい、ということでしょうか。
そうそう。自分自身ネットでやり方を一生懸命調べあげて、それでも分からんかったらそのブログ書いてる人に「ここはどうしてるんですか」とか、「ここのサイズは何センチですか」って聞いてるんだよね。
だから、今から頑張って農業を始めようとしてる若い子がその手間が省けるように、こっちから発信してあげたいって思うようになったね。
投稿した動画に「これはどうするんですか」ってコメントが来たら、次の日にそれについての動画を出したり。 本だと伝わらない奥行き感とかを動画で紹介してあげたいね。
画面の向こう側にいるひとの存在が、原田さんの心の中にはあることを感じました。
自分が楽しむだけではなく、他の誰かのことを意識した動画作りを心掛けておられるようです。
YouTubeから広がるつながり
ー 先ほど、「これから農業を始める若い人に向けて動画を発信したい」とおっしゃっていましたが、近年若者の農業離れの傾向があるということを度々耳にします。そういう中でも原田さんは若者を意識した農業に力をいれてらっしゃいますよね。
そうだね。若者の農業離れを問題視されてるね。
けど、やりたくない人はやらんほうがいいと思うんよ。
ー というと?
何かに急かされたり、受動的な思いでやってもなかなか続かないしね。
中高生とかでYouTubeを見た子が実際に来てくれて一緒に作業をしたりもする、そういう子たちの手助けをしてあげたい。
原田農園みたいにやれば、こういうカッコいい農業が出来るっていう代表的な存在になれればいい。動画を見てくれて原田さんみたいになりたいって思ってくれたら。
いやいややっても面白くないよ。
ー “やりたい”という気持ちが大切なんですね。
そうそう。それで言うと、僕は農薬も使用しつつ大量生産を心がける農業をやってるけど、中には自然農法とか有機栽培とかで薬を使わない農業もある。
でもそれはその人がやりたい農業であって僕がやりたい農業ではない。僕がやりたい農業はその人たちにとってはやりたくない農業かもしれない。
それはそれでいいと思う。
でも自分とのつながりがあって、少しでも同じ方向に向いているなら、一緒に農業をすることができたらいいなって。
ー “つながり”ですか。
うん、農業は一人でやることが多いけど、最近は近所の農家さんと一緒に種まきしたり、ハウスを建てたりとかそういうつながりがある。
このあいだも、普通は機械で収穫するんだけど機械が壊れてて、じゃあどうするかってなったときにみんなで手作業。
ー 農業って個人作業のイメージがありました。
自分が困ったときには誰かが助けてくれるし、今度その人が困ったときにはそこに行って手伝ってあげる。やっぱり助け合いなんだよね。
ー 人とのつながりを大切にして農業をなされている原田さんですが、YouTubeを通して人間関係は広がりましたか?
いろんな人と出会ったね。
茨城に住んでる日本の農チューバーの中でチャンネル登録者数1位の方が、僕が西日本災害でYouTubeを投稿できなかった時に支援物資を届けてくれた。普通ないよ、YouTubeやってなかったら。
それで、今度は逆にお礼と言ってはなんだけど、茨城に会いに行ったよ。
ー 茨城まで!
あとは一昨年、動画を見てくれてる福島の小学生が、竹パウダーを学級菜園にどうしても取り入れたいっていう手紙を送ってくれて。それでその子の家に竹パウダーを送って、そのあとに福島まで行ってジャガイモ植えて竹パウダーを撒く作業を一緒にしたよ。
9/25 竹パウダーを作る#489
こちらから竹パウダーについての動画を見ることが出来ます。
ー そういうつながりって素敵ですね。先日オフ会もされたんですよね。YouTubeで知り合った方とオンライン上ではなくて、実際に会って交流する、みたいな……。
そう、1年に一回はファン感謝デーということでオフ会をしてる。日ごろ体験できないようなことを体験させてあげてる。
呼びかけたら全国から30人ぐらい集まったよ。
ー 県外からも来られるんですか。
ほとんどが県外だよ。千葉、埼玉、四国、九州…。それもつながりじゃけぇ。
俺とのつながりもあるけど、来た人同士のつながりもできるしね。
つながりがつながりを生む。原田さんから広がるつながりは、決してネット上の淡泊な関係性ではないように感じました。
ー 最後に、自分のやりたいことに全力な原田さんに、私たち大学生へメッセージをいただきたいです。
なんでも挑戦だと思います。やってみないとわからない。
でも、やってみてダメな時はダメ。失敗もある。野菜の育て方と同じようにね。
失敗した時にそこでぱっとやめるかどうかはその人次第だけど、せっかくやったんだからってずるずる引きずってしまうと、もっと大きな失敗になるかもしれない。方向転換も必要だと思いますね。
原田さんご自慢のドローンを操作して頂きました
取材後、私たちは原田さんのカメラで写真を撮ってもらいました。ブロッコリー畑に囲まれた土地で、まるでモデルさんになったかのような気分で。最後まで笑顔溢れる楽しい取材となりました。
YouTubeチャンネル
Harada Farm https://www.youtube.com/user/takayuki810313
ライターだより
初めてライターを務めました。動画上はクールな雰囲気の原田さんですが、実際お会いしてみると、温かくてユーモア溢れる素敵な方でした。何かに取り組むときは、野菜の育て方のように、失敗もそして工夫の仕方もたくさんある。原田さんのように様々なことに果敢に挑戦していきたいな、と思いました。
カメラマンだより
やりたいことに次々に挑戦している原田さんのお話をお聞きして、最近忙しいことを言い訳にして消極的になっている私はとても刺激を受けました。やっぱりやりたいことにはすぐに挑戦したい、、、。そして経験を積みながら、成長し続けていきたいです。
【かいたひと】ゆーき/ライター
島根出身のライターでランナー。
今年の目標はマラソンに挑戦すること。
【とったひと】ゆーた/カメラマン
知らないところを探検するのが好き。もちろんカメラをつれて。
家ではクラシックギターを弾いたり、本を読んだり、寝たり。Twitter → @Yh_photo
2020年3月23日
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