聞き手:しんじ 写真:ゆーた 編集:ちぐはる
今日は2月29日。4年に一度の閏日(うるうび)です。
西条駅から車で約30分。閑散とした自然豊かな県央を走ると、愛車のエンジン音が良く響きます。ブーン。上り坂が多いので、普段よりアクセルを多めに踏んでいます。
車窓から、一本の梅の木が見えました。周りの木々はまだ冬仕様のグレーな服装でしたが、1人淡いピンクの帽子をかぶっている様は、何とも心細そうにしているように見えました。そういえば、今年は暖冬でした。
今回お話を伺ったのは、中嶋直哉さん。福富町で地域おこし協力隊に従事される中で「ぷらっとハウス」を運営されています。
僕と年齢が近いこともあり、個人的にアニキと呼ばせていただいてます。こっそりとですが。
ちなみに、アニキには1年前に一度取材を断られています。
空き家を利用したコワーキングスペース。コンセプトはぷらっとチャレンジが始まる、農村地域のチャレンジャーが生まれる拠点。地域内外の人が気軽に交流できるよう、ゆるく温かい空間となっています。
自分の進む「方向」
「1年前、シンジ君に取材をお願いされた時は、まだぷらっとハウスを人に見せられる状態じゃなかったんだよね。自分の手で空き家を改修してたんだけど、不慣れなもので(笑)。それに自分の生き方に対して腹も決まってなかったし……」
シンジとは僕の下の名前です。そして、自らの手で改修していたとは驚きです。
シンジと中嶋さんは、農チューバー原田さんのお手伝いをするボランティアで出会いました。当時、地域おこし協力隊として活躍する話をお聞きした際に、ぜひ取材させてほしいとお願いしました。けれど「今はまだその時じゃないから(笑)」と断られたことを、よく覚えています。
原田さんも過去にyeastにて取材させていただきました。原田さんの記事はこちらから御覧になれます。
https://maholabo.com/noutuber_harada_san/
ボランティアの様子はこちらから御覧いただけます。
「今回取材を受けようと思ったのは、節目だったからかな。あの時はまだ迷ってたし不安もあったんだけど、今は進む方向に対して決意が固まったからなぁ。」
中嶋さんが大学3年生の就職活動を控えた時期の3月11日、東日本大震災が発生しました。テレビで流れた被災地の様子を見て、居ても立ってもいられず福島県の災害ボランティアに飛びこんだそうです。これが、中嶋さんが社会貢献に繋がる形を模索し始めた原体験です。
その後は自動車販売店の営業職に就いたけど、自分の中の想いは静かに燃え続けていたと中嶋さんは語ります。
「当時仕事を辞めた後は、社会福祉法人に入ったんだよね。けど、やっぱり組織と個人でできることは違うからさ。もっと自分自身でアクションをしたいと思い、地域おこし協力隊という選択肢を選んだんだ。地域おこし協力隊だと、個人で直接アプローチができるからね。」
中嶋さんの地元広島市と近く、それでいて美しい自然と個性豊かな商店のあるロケーションに惚れたため、ここ福富町を活動の場に選んだそうです。
3年間の任期の中で、自分の中のエネルギーをどういう形で使っていくか、方向を模索していた中嶋さん。活動の中で見えてきた地域課題である「担い手不足」「相続問題」を解決していきたいと決意し、今は、自分で決めた方向を向いて歩いてるそうです。
「迷い」ながら、ひとと関わり変わっていく場所
取材日は、ぷらっとハウスがオープンして1週間程経った日でした。
ー ぷらっとハウス、オープンおめでとうございます!これでひとまず、ぷらっとハウスは完成……ということでしょうか?
「いやいや、実はまだ未完成なんだ。試行錯誤している段階でね。使ってもらいたいって想いはあるけど、どういうひとに需要があるのか、まだ分からないからね(笑)。地域の人の反応をもらいながら、少しずつ場所を作っていきたいんだ。」
取材中にも、ガラガラガラとドアを開ける音が何度か響きました。オープンな雰囲気と温かみのある内装、これは確かにぷらっと寄れるハウスでした。
多分、僕も歩いてたらきっと寄ってしまいます。
「せっかくなので、ハウスの中をお見せするね。」
ー わーい、待ってました!
「これはね、福富の知り合いの片づけを手伝った時にいただいたもの。ストーブもその時かな。」
「この木箱は、呉の古民家から頂いたもの。カッコいいからもらったけど、どうやって使おうか悩んでるんだよね。何か良いアイデアがあったら教えてよ(笑)」
「この本は、知り合い経由で貰ったんだ。子供が大きくなったから要らなくなったみたいで。」
ー この地球儀もですか?
「あ、これは僕のおじいちゃんから……えーと、いただいたものだよ(笑)」
こっそり持ち出したのでしょうか。
「このブランコは、近所の工務店さんが取り付けてくれたんだよね。遊び心で(笑)。」
「やっぱり、遊び心って大事だよねぇ」
ー そうですねぇ。あ、この人形、可愛いですね!
「これは……あれ、なんだろう、初めて見たな。あ、多分清水さんが持ってきたものかな。」
トントントンと2階から誰か降りてきました。
「お、そうそうこちらが清水さん。2階のスペースをお貸しして、そこでカイロプラクティックを営業してらっしゃるんだ。自分の店を持ちたい!っていう夢を叶えてあげたくってね。清水さん、学生達に1枚いいですか?」
カイロプラクティックとは『骨盤や背骨の歪みを徒手によって矯正する治療法』。施術以外にも、患者さんへの問診や生活習慣改善のアドバイスもされています。「健康と美容の輪を繋げる伝道師でありたい」と語る清水さんは、これからも地元福富で健康と美容の輪を広げていきたいとのことです。
「訪れてくれるひと達のアイデアや頂き物を取り入れながら、少しずつ変わっていく、そんな場所にしたいんだ。有難いことに、既にそうなってるけど(笑)。」
ー まるで、地域のひとの溜まり場のようですね。秘密基地感があります(笑)
「そう言ってくれると嬉しいな。今はママさんや子供達の利用が多いから、そういう雰囲気に近づいてるけど、これからどんな風に変わっていくかはまだ分からないんだよねぇ。」
子供達に人気のスペース。思わず体が動きました。
いろんな「選択肢」
ー 地域おこし協力隊も、あと3か月で卒業ですね。春からは、どのように活動される予定ですか?
「ぷらっとハウスの横に僕の事務所があるんだけど、そこで行政書士業をやりつつ、ハウスの運営を続けていく、かな。」
空き家のような相続に関する課題に対してアプローチしていきたいと語る中嶋さんは、行政書士の資格を持たれています。地域おこし協力隊で活動する傍らで取得したそうです。
最初に中嶋さんは「進む方向に対して決意が固まった」と仰っていました。
ー 不躾な質問で申し訳ないのですが、中嶋さんは自分の選んだ選択肢に後悔したりとか、これからの未来に不安を感じたりとかありますか?
「今はないかなぁ……。まぁ、あったとしてもマリッジブルーみたいなもんだね(笑)。」
ー マリッジブルーですか(笑)。
「うん(笑)。そう思うのは他にもっと良い選択肢があるんじゃないかって思うからじゃないかな。」
そう語る中嶋さんの声はとても優しかったです。
「学生の頃から自分の中の選択肢を探し続けていて、言語化はできないけどやっぱり何か僕の中にあるんだ。方向はだいたい分かるんだけど。」
ー 方向ですか。
「うん。色々考えて会社を選んで、いざ入ってみると上手く自分を組織に合わせられなくって……。結局組織にいる選択肢は諦めちゃったんだよねぇ。」
ー そんな。
「それからかな、自分で自分の生活をしていく為に、資格を取ったりしたなぁ。最近ようやく学生時代の理想に近づくための乗り物を見つけられたと思えるよ。今ようやくね(笑)。自分の思う方向からはズレてない気がするから、あまり不安はないかなぁ。」
少し間が空きました。
私事ではありますが、僕も中嶋さんと同様、春に大学院の卒業を控えています。就職活動時は、これが自分のやりたいことだと確信して選んだ内定先。けれど来たる日を意識し始めてから、まるで足元が細くなっていくような感覚に襲われています。
ー 自分のやりたいことを一本でカッチリ決意してやっていける人を見ると凄いなぁって思います。
「確かに、一本の道を突き進む人はカッコいいよねぇ。うんうん。」
ー はい。けど、僕は、その選択肢に、ある種固執しているようにも思えてしまうんです。えーと……どうしたら、その選択肢を正しいって思えるのでしょうか?
「うんうん、そうだなぁ……。僕はね、今思うことが正しいと感じるんだよね。」
ー 今思うこと、ですか?
「うん。シンジ君も会社や組織に入ってみてから、その時に自分が感じることに従えばいいと思うよ。乗り物は何回変えたっていいと思うし。」
ー はい。
「迷うのは当然だと思う。考えてるからこそ迷うんだもん。やっぱり選択肢ってのは、自分で正解にしていくしかないよねぇ。カッコいいこと言うと(笑)。」
取材中に中嶋さんは漫画「バカボンド」の言葉を授けてくれました。
一本の道を進むのは美しい。じゃが普通はそうもいかぬもの。
迷い、間違い、回り道もする。それでええ、振り返って御覧。
あっちにぶつかり、こっちにぶつかり、迷いに迷ったそなたの道は
きっと誰よりも広がっとる。
「この言葉を見た当時の僕は、とても心が楽になったなぁ、僕も結構ふらふらしてたからね(笑)。たとえ計画がなかったとしても、迷ったとしてもね、だいたいの方向が合っていればいつか自分の理想に辿り着くと思うよ。お互い、頑張ろうね。」
今日の取材も、アニキはアニキでした。
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1人だけ咲いていた梅も、周りに流されず悩んだ末に、先に咲くという選択肢を選んだのでしょうか。なんて都合のいいことを考えながら、ぷらっとハウスを後にしました。
中嶋さんからは「記事を読んだ学生の皆さんも、よかったらぷらっと遊びに来てね!」とのことです。
皆様、新年度も『yeast』をよろしくお願い致します。
ぷらっとハウス/行政書士なかしま事務所
営業時間:予約が入り次第
住所:〒739-2301 広島県東広島市福富町上竹仁1251−1
Facebook:https://www.facebook.com/naoya.nakashima.37
カイロプラクティック/清水さん
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営業日:不定休(週2程度営業中)
住所:〒739-2301 広島県東広島市福富町上竹仁1251−1 ぷらっとハウス2階
電話番号:090-8207-7402
ラインオフィシャルアカウント:@avp7091d
ライターだより
春は出会いの季節だと思っていましたが、今は別れの季節に感じます。3月と4月の狭間で何かに焦る自分の気持ちを優しく包んであげたいと思いました。
それとちょっと面白いのが、今回の取材は卒業生ライターと1年生編集者で伺ったんですよね。卒業間近の学生と卒業を控えたアニキの対談を聞いて、まだこれからも大学生としての未来がある1年生の彼は、一体何を思ったのでしょうかね。
また、長らくyeastをご愛読してくださってる皆様。いつも最後まで読んでくださり、心から感謝いたします。私事ですが、今回をもって学生団体mahoLabo.yeast運営を卒業いたします。春からは、アニキの言葉を思い出しつつ精進いたします。
カメラマンだより
私は現在就職活動中。今まで果敢に様々なことに挑戦してきた経験を振り返り、将来やりたいこと、なりたい自分を考える日々を過ごしています。就職活動がはじまったときには、「なりたい自分」という問いに一度答えを出すときが来たんだと思い必死に考え、今も考える日々です。これから考えることに苦しくなったとき、中嶋さんの言葉は支えになってくれる気がします。
【かいたひと】しんじ/ライター
亀が好き。
【とったひと】ゆーた/カメラマン
知らないところを探検するのが好き。もちろんカメラをつれて。
家ではクラシックギターを弾いたり、本を読んだり、寝たり。Twitter → @Yh_photo