聞き手:ちぐはる 写真:ムロ 編集:のんの しおね
100円を握りしめ、ワクワクしながら駄菓子屋に向かう。
「どれにしようかな。」
誰しもそんな子供時代があったのではないでしょうか。
あの頃から大人に近付くにつれて、数が減ってしまった駄菓子屋さん。
若者と言われる世代の僕らからしても、もはや懐かしい存在です。
今回取材させて頂く方は、森下義章さん。西条駅周辺で駄菓子屋さんを営んでいます。
ところが森下さんが営む駄菓子屋「ぱっきゃまらど」は僕らが知ってる駄菓子屋とは一味、いや二味三味違います。
ご本人曰く、「令和レトロ」なこのお店。気になることが盛りだくさんです。
是非、最後まで読んでいってください。
西条駅北側の住宅街の中にしれっと存在する賑やかな建物。
このお店を見つける為に、きっと目印は必要ありません。なんたって、存在感を放つこの外観。駄菓子屋「ぱっきゃまらど」はこちらです。
いらっしゃい、よく来たね。
気さくに出迎えてくれたこちらの方が、店主の森下義章さん。
立派なおひげがチャーミングです。
まあ、入りなよ。
お店の中に案内してもらいました。
全てはファンタジー
なんか飲むかい?
― あ、じゃあラムネください!
流石駄菓子屋さん。”ビー玉が入ったタイプのやつ”です。
くだらないことしか話せないけど、なに話したらいいかね?
実はテレビをはじめ、様々な媒体でも取材を受けたことがある森下さん。取材慣れしている様子です。
― やっぱり、このお店を開いた経緯が気になりますね。
経緯ね。これ、話すと長くなるけど大丈夫?
― もちろん、それを聞きに来ました(笑)
わかった。まず、俺はエジプトの大学に進学して、そこでね、某国際テロ組織に所属することになったんだ。そこで……
― ほうほう。(え?これ、聞いて大丈夫のやつなのか……?)
任務で砂漠に行った時に、UFOに連れ去られるんだよね。そこで言われたんだよね。
店を開けって。
― なるほど、UFOは実在したんですね。(なんて返せばいいか分からない……。この取材どうなってしまうんだ?)
……っていうウソ!!(笑)
― (取材陣一同)よかったーー!!ウソで!!
ただの取材じゃつまらないな~って思って煙巻いてやろっかなって思ったんだよね(笑)
流石にかわいそうだから僕の良心がネタ晴らしさせたよ。でも結構これは伝えたいことなんだよね。
― エジプトの大学のことですか?
違うよそこもファンタジー(笑)
だけどね。今から話すこともファンタジーかもしれないんだよってこと。疑いなさいって説教垂れるわけじゃないけど、俺が言ったからといって本当のことだとは限らず、全てはファンタジーの可能性があるんだよってことを最初にまず言っておきたいんだ。
まあまた後で詳しく話すよ。
― なるほど。凄く重要なことを気付かされる気がします。是非後で聞かせてください。
未来とアソビ
― では改めまして。どうして「ぱっきゃまらど」というお店を始めようと思ったんですか?
まず、西条の酒まつりに行った時に楽しかったんだよね。で、これ終電とか気にしてたら楽しめないなって思ったから住むことにしたんだ。
訳あって仕事してなかったから、西条で自分でお店したいなあって思ったんだよね。自分がしたいことを好きな時に出来るようになりたくて、音楽が好きだからクラブとか作りたかったんだよ。
― お店に置いてあるレコードとかは森下さんが好きだからなんですね。
そうそう。でも、西条でクラブやってもあんまり人が来なさそうだなって思ったんだよね(笑)だから何するか決めてなかったんだけど、とりあえず店やる準備始めようと思って。
店やるからには理不尽なことに耐えないといけない場合があるじゃない。だから俺なりに理不尽なことが多いと思う介護の仕事を始めたんだ。
― 慣れる為に、まず飛び込んでいったんですね。
完全無計画だったよ。そこで経験したおかげである程度は理不尽に慣れたんだけど、
理不尽なことをしたいわけじゃないのにしてしまう人達を見るのが辛かった。
人は高確率で将来こうなってしまうのかって。不謹慎かもしれないけどね。
そこで、未来が多く残されたこども達を大事にしたくなった。こどもの声は、未来の音がする。
だからこども達に少しでも長く楽しい時間を過ごして欲しいと思って、それが出来る場所が駄菓子屋だと思ったんだ。
― ある種の使命感のようなものでしょうか?
使命感なんて大層なものじゃないかな。好きなことを好きなときにしてたいぐらいな感じ。そういう場であったらいいなあぐらい。言ってしまえば、アソビ感覚だね。
俺にとってアソビって、ゆとりがあって、どうでもいい、やーめたでやめれること。だから、今日店をやめてもどうってことない。俺は、人生はアソビだと思ってるから。
― 森下さんの人生のテーマはアソビなんですね。
そうかもね(笑) それもスペシャルなアソビじゃなくて、日常のいつもの500円で楽しめて、小躍りするぐらいのアソビをしていたい。常にちょっと余裕がある、みたいなね。この場所はその為の場所でもある。丁度音楽もあるしさ、文字通り小躍り出来るよ(笑)
令和レトロな空間で遊んでる
ラムネやポンジュースなど子供の飲み物からお酒まで楽しむことが出来ます。
― 駄菓子にお酒にレコードと、このお店は一体なんと呼べばいいのでしょうか。
そりゃ、駄菓子屋だよ。ここはこどもの為に駄菓子を置いてる場所だから。
君たちが知ってる駄菓子屋とは違うかもしれないけど、今の子達にとってはこれが駄菓子屋。昔、ばあさんやじいさんがこどもの為に駄菓子屋開いて、好きなもんを置いてって、それがレトロになったのが、君らの知ってる駄菓子屋だと思う。
俺は令和に同じことをしてる。だからこのお店は”令和レトロ”になるんだよね。
― 「令和レトロ」ですか!新しい響きですね。こどもの為の駄菓子屋に大人が飲むお酒があるっていう真逆の性質のものが共存している状態も、なんというか、今風のことばで言うと“エモさ”を感じます(笑)
“エモい”のかもしれないね!(笑) お酒あったっていいじゃない。ここは酒の都西条だし。何より、売り上げの大半はお酒だしね。駄菓子屋の単価は低いから、大人にお金落としてもらわないと駄菓子屋やってけないよ(笑)
― 大人が間接的にこどもの為の場所を支えているんですね。素敵な構造だと思います。
この先ここで楽しんでくれたこども達が大人になるでしょ。そしたら今度はここでお酒を飲むようになって、循環が生まれるよね。
今3年目だから、当時高校生の子が来てお酒飲んで喋るんだよ。「おお!おっちゃん!」みたいな感じで。
ただ、高校生はまだ君達みたいに最初は違和感を持って店に来る。これが小学生くらいのこどもたちは多分何も思ってない。大学ぐらいになって、「え?おまえんとこの駄菓子屋違くない!?」みたいな会話するだろうね(笑) そういうドッキリ的なのが俺からのプレゼントでもある。
― うわ、その未来凄くワクワクしますね!
そんなことをぼーっと考えながら遊んでる。経営しているというよりは、やっぱり遊んでるって感覚かな。
満足するまでずっとプレオープン
― ところで、本当に色々な装飾がありますね。見てて一生飽きないんじゃないかって思います。
足元から天井まで内装も彩りに溢れています。
気付いたらこうなってたね(笑) オープンしてから俺がなんとなく良いなって思ったものを置いたり、知り合いの絵描きが描いてくれたり、ここに来たひとたちがこれ置いたほうがいんじゃない?って持ってきてくれるんだよね。
けど、まだまだこんなもんじゃないよ。完成した気にはまるでなってない。
ずっとプレオープンみたいな感じだね。
色んな人の創意工夫が詰まった場所のようです。しかし、これでも発展途上とは驚きです…….!
レコードを流すスペースがあり、店内にはついつい身体を動かしたくなるリズミカルな曲が流れています。
だからファンタジー
― お店の話から森下さんのアソビを大事にする人生観まで、楽しくお話を聞かせていただきました。記事で森下さんを読者の方にお届け出来るのが楽しみです!
でもその記事……ウソかもしれないよ! だってそこに書かれてる俺は君たちが書いた俺で、本当の俺は、今ここにしかいないんだもん。
― 最初の話ですね。確かに僕らは文章と写真を通してでしか、しかも僕らが感じた森下さんしか伝えれない。それは”僕らの知ってる森下さん”という空想の人物ですね。
ネットに営業時間とか、カレーが食える店とか書いてあるけど、あれ俺は書いてないからね。営業時間は大体合ってるけど、俺の気分次第だし、カレーだって書いた人が来た時にたまたまあっただけで今無いし(笑)
― ファンタジーかもしれないんですね。
そう。食べ物だったら食べてみないと味分からないし、昔の話はタイムスリップしないと事実かどうか分からない。だからさ、この「ぱっきゃまらど」もファンタジーのまんまにしないで、実際においで。
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令和レトロな駄菓子屋さん「ぱっきゃまらど」。毎日様々な人が訪れ、会話に花を咲かせています。
未来の音が健やかに響くこの場所で、森下さんは、今日もアソんでいます。
本当かどうかは、行ってみないと分かりませんけどね。
ぱっきゃまらど
営業時間:月火木金土日のだいたい11時から23時(森下さんの気分次第)
定休日:だいたい水曜日(森下さんの気分次第)
住所:〒739-0001 広島県東広島市西条町西条550−6
TEL:082-490-3570
ライターだより
『Yeast』でお届けしてきた方々はどの方も皆さん魅力が詰まった素敵な人ばかりなので、やっぱり読んだ後は、是非会いに行ってもらいたいなという気持ちが常にありました。今回は記事内であったように、その気持ちの核心を突かれたような場面が取材中にあったので、会いに行ってもらいたい気持ちがより一層強くなりました。是非、森下さんに限らず、『Yeast』でお届けしてきた方々の元へ実際に足を運んでいただけたらなと思います。
カメラマンだより
森下さんの世界へ誘われました。本当に世界観が独特で思わずシャッターを切り忘れていた場面もありました。が、ファインダー越しに常に笑顔でいれた撮影でした。森下さんの笑顔と共に記事をお楽しみください。
【かいたひと】ちぐはる/経理・Yeast編集チーム・Webデザイン
名古屋出身。カフェイン中毒。お喋りと散歩が好き。
【とったひと】ムロ/カメラマン、イベンテーター
兵庫出身。旅とカメラが好き。面白いことしたい。人生は一期一会。
Insta→muro_muro.0510 Twitter→@muro_110510