「価値あるものを作り続ける挑戦」〜人情深い老舗酒蔵の副社長のお話〜 賀茂泉酒造株式会社 前垣壽宏

      

聞き手:りさ 写真:かんちゃん 編集:みやさこ

 

皆さんご存知の西条駅前の酒蔵通り。
「西条といえば日本酒」そう言われる方も多いのではないでしょうか?

 

さて、その酒蔵通りに蔵を構える老舗企業・賀茂泉酒造。
大正元年(1912)より設立され、現代でもそのこだわりの
純米醸造(米と米麹、水で日本酒を作る方法)で人々を魅了し続けてきました。

 

 

そしてこちらは三代目副社長の前垣壽宏さん。

賀茂泉の味や伝統を引き継ぐだけでなく、国連本部で日本酒をPRされるなど、近頃大変活躍されているそう……。

今回は、人々をこだわりの味で魅了し続ける前垣さんにお話を伺ってきました。

歴史ある老舗酒蔵の副社長の前垣さんにお話を伺えるとのことで、インタビュー陣は興奮気味です!

 

賀茂泉ってどういうところ?

 

ーまさか前垣さんにインタビューできるなんて思っていなかったので、ものすごく嬉しいです!今日はどうぞよろしくお願いいたします!

 

そう言われると僕も照れ臭いんですが、、。僕は今日のインタビューをすっかり忘れていたくらいですよ(笑)

 

ーえー!そうなんですか!!

 

冗談だよ、冗談。(笑)

 

まさかこんなにフランクでお話がしやすい方だとは思っていなかったインタビュー陣。
老舗酒蔵の副社長のお話を伺うとのことで緊張していたのですが、すぐにほぐれました。

 

ー早速なのですが、賀茂泉ってどういう酒蔵なんですか?

 

そうですね、一言で言うなら「こだわりの純米酒を作る蔵」です。

「純米酒」とは、米と米麹、そして水で作られているお酒を言います。

 

歴史的な話になりますが、もともと日本酒は純米酒と同じように米麹で作られていました。

しかし太平洋戦争が激しくなって米の生産量が少なくなったことや、当時の酒税の関係で少ない米量で作らねばならなくなったことから、アルコールや化学調味料などを添加して、日本酒を作らなければならなくなりました。

 

そして時は流れ東京オリンピックなどが終わると、様々な分野で昔に立ち返る風潮が出てきました。

日本酒の世界でもそうです。

 

私の祖父である前垣壽三は、全国の酒蔵の人々とも話し合い、本来の日本酒の作り方に立ち返ろうと決め、広島でいち早く取り組みました。

 

 

ーすごく挑戦的な蔵だったんですね。

 

挑戦的……。確かにそうかもしれないですね。

 

最初は売れなかった時期もありましたが、山陽新幹線などの交通網が発達して東京などの都市からのアクセスが簡単になったこともあり、注目を浴び、品切れになってしまうほど売れる商品を西条から届けられるようになりました。

 

ー日本酒の歴史ってとても動きがあったんですね。知らなかったです。

 

その時代時代に流行があり、日本酒の世界にも流行があります。

 

でも賀茂泉は流行りを追いかけることはしません。

 

 

ーそうなんですか。それはどうしてですか?

 

そもそも日本酒を作るのには、お米の収穫をしてお店に並べるまで2年ほどかかります。いちいち時代を追いかけていては追いつきませんし、5年後何が流行っているかなんてわからないですよね。

 

人の手が入れない、時間が育んだり自然が作ったりするものを表現することを評価し、体現することにこだわっています。

 

私たちは、時代に流されずに本当に価値のあるものを作っていきたいんです。

 

ーなるほどです。時代を追いかけるのが難しいからこそのこだわりがあるんですね。

 

そうですね。

 

具体的な例を2つ挙げるとすると、1つは、

 

水や空気、そして時間といった、自然を大切にしたいと考えています。

 

そしてもう1つは、日本酒作りには酵母が必要になるのですが、

その働きを最大限引き出すための努力が必要になってきます。

酵母も生きているので、毎回同じように働いてくれるわけではありません。

 

だから僕らの介在価値は、いかに再現性を高めるかと言う点にあるんです。

 

つまり酵母に同じように質を高くしたまま働いてもらえるかを調節しないといけない、ということになってくる。

 

酵母を、使っているわけではなくて、育てている感覚ですかね。

 

僕らはこのような人間の手ではいかんともしがたいものを価値として大切にしたいと思っています。

 

 

老舗酒蔵の副社長、どんな方?

 

ー前垣さんは小さい時から酒蔵を継ぐ覚悟をされていたのですか?それとも紆余曲折があったのでしょうか?

 

そうだね、僕の今のポジションは、自然になったという感じかな。ものすごい紆余曲折があったというわけでもないんだよ。

 

ーそうだったんですね。伝統とブランドがある酒蔵を継ぐことって、とてもすごくプレッシャーを感じて、違う道を考える、みたいなことがあると思っていました。

 

どうして自然だと感じることができたんですか?

 

代々商売をしている家ということもあって長男が生まれたらそれはどんな子になるかわからないけど跡継ぎだって決められている。そんな流れが普通にあった。

 

そしてこういう日本の古い風潮に反抗する跡継ぎの話もよく聞くとは思うけど、僕の場合、そうでもないんだ。

 

自然の流れで自分は跡を継ぐ、だからその準備をすればいい、というふうに考えたよ。

「何か違う道で生きてやる」とか「この家から出て行ってやる」、とかは考えずにね。それが自分にとっての普通だったからね。

 

だからみんなの方がすごいと思うよ。大学生くらいでさ、自分で「こう生きる」と決めて生きていこうとしているから。

 

ーそうだったんですね。大きな視点で、自然の流れを受け入れながらもとても柔軟に生きてこられたように感じます。

 

先ほどおっしゃっておられた、流行りを追いかけずに価値のあるものを作り続けるという信念にもとても感銘を受けました。

 

ー前垣さんはまるでのようなお方ですね。

 

そうか … 水か。 そうなのかもしれないね。

 

ー今日はお話をありがとうございました。賀茂泉のこだわりを知って日本酒を飲むともっともっと深い味がしそうです!!

 

そうでしょう〜?

もしよければ酒蔵を見ていきますか?案内しますよ!

 

ーいいんですか、ぜひ見て見たいです!

 

酵母を発酵させる大きなタンク。

 

一時間以上も酒蔵見学をさせてもらいました。

 

 

最後に一緒に写真をパシャリ。
そして前垣さんが持っていらっしゃる「純米吟醸の朱泉本仕込み」を頂きました!

 

ー本日は本当にありがとうございました。お酒まで頂いて、、、

 

いいえいいえ、ちなみにお昼はどうするの?

 

ーそうですね、どこかでふらっと食べようと考えています。

 

それならいいとこあるよ。近くのレストランのお昼は絶品だよ。

 

そうして我々は前垣さんに教えて頂いた、レストランでたらふく美味しいお昼を頂きました。

 

ライターだより

前垣さんから、大きな視点でどっしり構えつつ、何が本当に大事かを見極める物の見方を学ばせていただきました。そして日本酒ってまだまだ奥深い。人との出会いや経験をつんで、もっともっと深い味わいを楽しめるようになりたいです。

 

カメラマンだより

日本酒がその時の時代背景と大きくかかわっているのは、全く知りませんでした!
そのなかで、自分が本当に良いと思うものを作り上げる、ってすごいな~
今の時代はみんなが需要を意識しすぎているのかな?なんて考えました。

 


賀茂泉酒造株式会社
住所:〒739-0006
広島県東広島市西条上市町2番4号
TEL:082-423-2118
営業時間:平日8:00-17:00 (定休日 土日祝日、12月のみ日曜日のみ)
ホームページ:http://www.kamoizumi.co.jp/

 

【かいたひと】 りさ
ライター担当。火の国出身。
美味しいものと楽しい人と音楽とダンスとコーヒーとバスケが好き。
興味があることにすぐ飛びつく。夢はオーロラを見ること。

 

【とったひと】かんちゃん
webデザイナー&カメラマン
大阪出身。写真を撮ること、人と話すことがとにかく好き。
人が気づかない魅力や楽しさを探すことが得意。