聞き手:のんの 写真:ゆーた・しゅるしゅる 編集:あゆ
4月21日のよく晴れた日曜日、豊栄のトムミルクファームさんの敷地内にて、セントルマルシェが開かれました。
このマルシェは、東広島市の「豊栄」「福富」「河内」、合わせて「県央」と呼ばれる地域で開催されています。
だから、「セントル(中央)マルシェ」という名前なんですね。
コンセプトは、「心と体と大地に優しいマルシェ」。
県央の食材を使った、心と体が元気になるようなフィンガーフードやスイーツの出店がたくさんありました。
また、使用する什器も、極力プラスティックの物は使わず、自然素材を使ったもので統一されています。
会場である牧草地に配慮された、やさしいマルシェです。
今回、私たち学生団体mahoLabo.も、ご縁あって出店させていただきました。
mahoLabo.の活動報告や、Yeastの取材先をまとめたフリーペーパーの展示を行いました。
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出店準備のため、集合は朝の8時半。
朝早い時間に関わらず、到着した頃にはすでに会場の準備が始まっていました。
それぞれの白いテントには、出店の準備に走り回るお店の人たちが。
身に付けているのは、みんな揃って白か青の服です。
色がお揃いというだけで、一体感があってちょっと嬉しい。
事前の出店者会議で、「出店者のみなさんは絶対に、白か青の服で来てください!」と声を張っていた、彼女の姿を思い出しました。
セントルマルシェの仕掛け人
その人とは、地域デザイン研究所の清水早苗さん。このセントルマルシェの仕掛け人です。
私たちは、事前にマルシェについてのお話を、清水さんにお伺いしてきました。
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― まず、セントルマルシェが始まったきっかけを教えてください。
きっかけは2つあってね。事業的な側面と、ビジュアル的な側面があるんだけど。
まず事業的な切り口から言うと、広島県央商工会の伴走型支援事業から始まったの。
そこで地域マルシェをやってほしいってことを言われたんだけど、今時マルシェってどこもやってるでしょ?(笑)
普通のやり方じゃつまらないなと思って。
そこで、友人との会話を思い出したの。
それがビジュアル的な切り口になるんだけど、フランス・プロヴァンス帰りの友達と一緒に、こっちにドライブに来てたのね。
そしたら、その友達が「なんかね、この辺ってプロヴァンスにちょっと似てるんよね」って言ったのよ。
「えっプロヴァンス!?これだ!」って思って(笑)。
― へぇ!でもプロヴァンスって、南フランスですよね。このあたりとどこが似てるんだろう……?
そうよね。何をもってプロヴァンスというかなんだけど、まずは風景ね。
瀬戸内海を地中海、アルプスを中国山地とするでしょ。そしてここを、ぶどうの産地であるリュベロンとか、そのあたりに見立てたらいいんじゃない?ってなったの。
そしてもうひとつは、スローライフ。
フランスって農業大国でしょ。このあたりも、実は農業大国なの。
一次産業が盛んで、東広島市の台所みたいな役割がある。
だから、もうフランスに似てるって言っていいんじゃないかと思って!
「こういうのは言ったもん勝ちよね!」と笑う清水さん
それで、この地域の特徴を生かした、「心と体と大地に優しい」っていうコンセプトのマルシェを立ち上げようって話になったの。
― なるほど。プロヴァンスとの共通点が、他にない特別なマルシェを作る鍵となったんですね。
県央ブランドをつくるために
― それにしても、先日の参加者向けの会議で思いましたが、色やテーマが徹底的に統一されているなと思って。それはどうしてですか?
人間って、目から入ってくる情報が84%なんですって。
だから、パッと見た色で印象が決まりやすいの。
加えて、触れるものがあれば、印象はさらに深くなる。
今回のテーマカラーは青・白・緑で、緑は草原の色があるから、みなさんには白か青の服で統一するようお願いしました。
mahoLabo.メンバーも、服の色味を統一して参加しました。
それに、お店のメニューボードも、全部黒板にチョークで書いてもらうようにお願いしたの。
プラスティックのピカピカのラミネートじゃなく、ちょっとざらついたような質感のあるもので、マルシェの温かい印象を強くしたくて。
事前の出店者会議では、黒板POPの書き方講座もありました。それぞれのお店の個性が光ります。
― こうした地域イベントのブランディングを、地域デザイン研究所でされているんですね。
県央以外の地域イベントのデザインもされるんですか?
もちろんここ以外でもお仕事はありましたけど、ここまでのめり込むことはなかったんですよ。
この県央は、関わるうちに、だんだん住みたいなって思うようになったの。
― そうなんですか!それはお仕事で関わるうちに?
それもあるけど、この地域はずっと好きでね。
30年くらい前、上の子がまだ2歳の頃に、豊栄によく来てたの。
まだ小さいジェラート屋さんくらいしかなかった頃で、今ほどたくさんお店はなかった。
でもここに来て、たまに牛触らせてもらって、それでジェラートを食べて帰るのがお決まりのコースで。それがすごく幸せだったのね。
……そのときの私、ちょっと大変だったの。
子供が二人いて、おばあちゃんが頭の病気して小さい子供みたいになっちゃって、義理の父も鬱になって。
でも、ここにきたら最高に癒されたのよね。
娘たちと豊栄に来てジェラート食べて、もうしょうがないよね、また帰るか!って言ったりして。
ここにいる人たちも優しくて、子供たちに声かけたりしてくれるの。
だからここは、私にとって癒しの場所。心を解きほぐしてくれる場所なの。
だからこそ、このまちをもっと良くしたい。
セントルマルシェの企画を立ち上げた私が、このまちの成長を見届けたい。
事業を受託しただけじゃなくて、責任をもって関わりたいの。
記事には書ききれませんでしたが、県央の未来を見据えた様々な作戦を教えてくださいました。
本気でこの地域のことを考えているからこそ、語る言葉にも熱が入ります。
地域の可能性を信じる
今回、マルシェの中で「素敵ショップコンテスト」というものがありました。
この提案をしたのも、清水さんの「地域全体をよくしたい」という思いの一環だそう。
出店者さん同士で切磋琢磨してほしいなと思って。
この地域の伸びしろを信じているから、ここの人たちが刺激をし合って、全体がよくなるようにしたいのよ。
出店者も参加者も、「ここ素敵!」と思ったお店に投票する「素敵ショップコンテスト」
参加者さんにも出店者さんにも、このマルシェを通して、このまちの可能性がすごくあることを感じてもらいたい。
高齢化とか空き家問題とか、いろいろな問題はあるけれど、新しい人もたくさん入って来ているし、新しい取り組みもたくさん進んでる。
ここには新しいことを始める受け皿があるっていうことを、たくさんの人に伝えたいですね。
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「この地域がもっとよくなるように」という思いが込められたセントルマルシェ。
お客さんが入り始めるころには、陽気なシャンソンが流れ、ごはんのいい香りが漂い始めていました。
ここからは当日の様子を、少しだけお見せします。
地域デザイン研究所さんの出店。インタビューのとき、清水さんが「今ベーコン仕込んでるのよ!」と嬉しそうに話してくださってました。
前々回のYeastの記事になった「広島入野きのこセンター」東さんの出店。行列ができていました。
買ったドリンクを置いて写真が撮れる、インスタ映えスペースを作ったお店も。
動物たちと触れ合える「ふれあい動物園」。……
……のために運ばれていくヤギさん。
キャンプ会場。前日からテントに泊まっていた人も。
地元、豊栄中学校の発表。ここが故郷になるなんて羨ましいな。
地元、賀茂北高校の生徒によるワークショップ。
東広島で、石臼で挽かれたチョコレートが食べられるの、知っていましたか?この石臼の開発には、広大の教授も関わられています。
マルシェのメインイベント(!?)みるく早飲み競争。トムミルクファームさんのおいしい牛乳を一気飲み。
セントルマルシェは、終了時刻の16:30まで賑わいを見せていました。
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会場の中央には、絶えず青、白、赤の旗がたなびいていました。
風に揺れるトリコロールに、清水さんの言葉が蘇ります。
ここってね、「風がみえるまち」だと思うの。
― 「風がみえるまち」?
そう。この時期、春は田んぼに水が張るでしょ。風が通ると、水面がきらきら揺れるの。
夏は青葉がさらさら、秋は稲穂が。冬は雪が風に舞うの。
風って目に見えないのに、ここでは確かに風の存在がわかるのよーー
私の心の中に、風がやさしく吹くもうひとつの故郷が生まれました。
みなさんも、次回のセントルマルシェにぜひ、足をお運びくださいね。
【かいたひと】のんの / mahoLabo.代表・ライター・編集
京都出身。おいしいパンがあれば幸せ。趣味はりんごをワインで煮ること
【とったひと】ゆーた(Yut@)/カメラマン
知らないところを探検するのが好き。もちろんカメラをつれて。
家ではクラシックギターを弾いたり、本を読んだり、寝たり。
Twitter → @Yh_photo
【とったひと】 しゅるしゅる /カメラマンたまにライター
カメラと写真が大好きで、最近はポートレートを撮りたくてうずうずしている。
好きな食べ物は嚙みごたえのあるもの。特にイカが良い。