聞き手:たかな 写真:ももち 編集: あやぽ
沢山の学生が集うまち、西条下見。
そこにぽつんと立っている、まっしろな壁が目を引くお店。
今回取材に伺ったのはyuu coffeeさん。7坪ほどの小さな店内は、コーヒーの優しい香りに包まれています。
お店がオープンしたのは今年の7月。店主の沼井さんは、ご結婚を機に和歌山県から東広島市へやって来たそうです。
― どうしてここでカフェを開こうと思ったんですか?
私元々、スターバックスで社員として働いていたんですよ。そこでコーヒーが好きになって、カフェ巡りをするようになって、カフェが好きになって。
その後働いていたお店を辞めて、和歌山で一回、自分のお店立ち上げたんですよ。
それで結婚して東広島に住むことになっても、続けてやりたいなあ、っていうのが考えにありました。
― 自分のお店を持とうと思ったのは、何か理由があるんですか?
ゆっくりできる場所、癒しの場所を提供できたらいいな、っていう思いがあったからですね。地域のひとに、って言ったらちょっとおっきいですけど。
あとは私自身、カフェラテがすっごい好きなんですよ。やから、自分でもおいしいカフェラテを作れるようになりたいっていうのも、きっかけのひとつです。
― 私も以前このお店のカフェラテを飲んだことがあるんですけど、とってもおいしかったです。やっぱりメニューにはこだわりがあるんですか?
こだわり、というか、レシピ作成までの過程をすごく努力しているつもりです。
例えば、今使っているカフェラテのエスプレッソのお豆にどの牛乳が合うのか、っていうのも、いろんなもの買って、全部飲み比べて。
すごい時間と労力をかけてできあがっているドリンクなんで。自分の舌を信じて、1人でやってます。
沼井さんのこだわりが詰まった一杯です。
おやつも、特にチーズケーキは何回も作って。チーズっていろんな種類あるじゃないですか。それも買って、この割合にしたらどんな感じになるっていうのを試して。
レシピのところから全部、考えてる感じですね。
ひとりでも、癒される場所
― 店内に置いてある家具や小物にも、何かこだわりがあるんですか?
お店の内装も全部自分で考えたんですよ。色は基本、白とか、ライトグレーとか、落ち着く色でまとめて。
あとはこの机も、オーダーメイドで高さや長さをお願いしました。
― えっ!そうなんですか!
机の高さと座面の高さの間が何cmだと座りやすいっていうのを調べて、それに合うようにしました。
手をどこについても落ち着けるように。あとは体との間が広すぎても、机が高すぎても、食べるのがしんどかったりするので。
― お客さんがゆっくり過ごせる空間づくりを徹底していらっしゃるんですね。
店内にあるものひとつひとつが、お客さんにとっての癒しの時間を生み出しています。
― 様々な点においてこだわり抜かれたお店ということですが、これらを考える土台となった、お店のコンセプトはあるんですか?
コンセプトとしては、「ひとりでも、癒される場所」っていう感じです。
ふたりで行っておしゃべりするのも楽しいんですけど、ひとりでのんびりする時間を過ごせる場所って、ちょっと少ないのかな?って思ったんですよね。
私自身も、ひとりの時間は結構大事にしてるので。
接客も、せかせかしないようにしています。空間がのんびりできる感じでも、店員さんがせかせかしてるのは、うーんってなるかな?と思って。
やるべきことが溢れかえった日常の中で、ひとりでのんびり過ごす時間の大切さを忘れてしまうひとは、少なくありません。
yuu coffeeさんは、そんなひとたちの心に、ちょっとだけ余裕を与えてくれる場所です。
― 沼井さんの、いろんなことをひとつずつ丁寧にこなすところが、素敵だなと思っていて。こだわり続けるための原動力って、何かありますか?
でも、頑張りの先はやっぱりお客様なのかな。お客様に喜んでほしい、っていうのが大前提というか。
新規のお客様も来てくれたら嬉しいんですけど、リピーターの方をつくっていくには、おいしくないと、とか、空間がよくないと、っていうのが考えにあるので。
だからお客様のことを考えると、やっぱりいろいろ時間をかけることは、自分の中で大事かなとは思ってます。
お客様と同じ目線で
― 以前来店した時に、沼井さんがお店の外までお客さんをお見送りされる姿が、印象的だったんです。
あれは別に、私がされて嬉しかったからやってるとかじゃないんです。
このカウンター内にいて、なんか近くて遠いな、って思ったんです。私が立ったらお客様と対等な目線でいる時間が少ないなあ、と思って。
ってなったら、外に出てお見送りするのがいいかなと。そこでちょっとお話が弾んだりするときもあるので。
同じ目線でお話しできたら、お客様も私も、いい1日になるかな?っていう感じです。
東広島は、優しいひとがいっぱいいるイメージです。あったかいひとが多いなって思いました。
お客様から話しかけてくれることが多いんですよね。「おいしかったです!」とか、「また来ます!」みたいな感じで。そこから私もお話をして、常連様になって。
今となってはもうインスタのメッセージでやり取りするお客さんができたりとか。
旅行行ったからこれ買ってきたよみたいなこともあって。手作りのケーキとかを持ってきてくださる方もいて。すごい嬉しいです。
― 素敵だなあ。沼井さんの優しくて丁寧な接客があるからこそ、築ける関係性だと思います。
ぶれずに、まっすぐに
― 開店が、今年の7月ということでしたよね。新型コロナウイルスの流行中に、しかも知らない場所で、お店を始めることに不安はありましたか?
そもそも和歌山でカフェ開いたのが、去年の4月で、もうコロナ真っ盛りみたいな感じだったので。もうこのままつっきるしかない!っていったんです。
お客様が来るかなあ、って不安はそん時もありましたけど。こっちが感染予防のために気を付けてるっていうのを発信してたら、やっぱり安心して来てくれるお客様っているんだなあ、って思ったので。
ここでもお客様、まあ来るやろうなんか思ってないですけど。(笑)
気になるなってひとが来てくれたらいいなっていう、のんびりした考え方なんで。別にこう、いっぱいお客様が来て、いっぱい売り上げて、とかは全然もう頭になくて。
前のお店はもうちょっと大きくて、10人ぐらいお客様が入れました。でもその時も、1人でやってたんで。営業日も、週5だったんですよ。土日もやってて。ちょっと心身疲れたというか。今は結婚してこっちにいるので、家庭も大事にしなきゃっていうのはあるし。
お店経営すること自体が自分のやりたかったことなので、そもそも「楽しみたい!」みたいな気持ちがあるんですよね。疲れてまですることじゃない、って割り切るようにしてて。
― アルバイトを雇う、ということをせずに1人で経営されているのは、何か理由があるんですか?
なんか、自分のこだわりってあるじゃないですか。それを自分のものだけにしたいというか、ひとに働かせてまで共有すべきものじゃないというか。
自分の中のこだわりを大事にして、自分だけで働けたらいいなあ、っていう感じです。
この場所に惹かれたひとが来てくれたらいい。自分自身の日常や体を壊さない。自分のこだわりは自分で大事にしたい。
沼井さんの行動の根底にある考えが、少しずつ見えてきた気がしました。
― なるほど……。ここまでお話を聞いていて、沼井さんってなんだか、自分の中の芯のようなものが揺るがないひとだな、と思いました。その姿勢はどこから来ているんでしょうか。
うーん、生まれ持った性格もあると思うんですけど。それに加えて、前働いていたスターバックスが、経営理念をすっごく大事にされていて。お客様第一で、お客様に喜んでもらいましょう、っていう。
その目標を達成できるように行動してたら、自分自身がぶれずに進んでいけると思うんですよ。
だから、スターバックスで働いてたから、ぶれない自分ができた、っていうのはあるかもしれないです。自分自身、コンセプトが「癒しの場所を提供したい」というところなので、それに向かってやるだけ!というか。
多分、あれもしたい、これもしたい、っていうのが、いい意味でも悪い意味でもないんかな、と思うんです。もっと店舗数増やしたいとか、そういう目標があれば、もうちょっとぶれた道行っちゃうのかなって思うんですけど。
私のお店はもうここだけ。ここだけでも、癒しの場所があれば、っていう感じで、目標が1つなので。だからぶれないのかな?と思ってます。
1つの目標に向かってまっすぐ進むだけ。言葉にすると単純ですが、いざやろうとすると、なかなか難しいものです。
ぶれずに歩き続けるコツは、自分が何をしたいのか、何を大事にしているのかを、はっきりさせることなのかもしれません。
変わらずに、このまま。
― これから、どんなお店にしたいですか?
やっぱり、小さなお店らしく、前を通って気になったひとが、繰り返し来てくれるようなお店のままでずっといたいな、っていうのはあります。
人気店になりたいわけでもないし、大々的に広告出したりとかもしないからこそ、来てくれたお客様とお話がしっかりできる、お客様と同じ目線でいれるお店、近い存在、であると思ってて。
変わらずに、このまま。私自身も、このお店も、ドリンクも、おやつも。何も変わらないまま。いい意味でですけどね。ずっと愛されるお店でありたいな、とは思ってます。
大きな結果を残すこと。利益を追求すること。そのためにがむしゃらに頑張ること。確かに、どれも素晴らしいことです。
だけど、それに夢中になって、自分の心や体を置いてけぼりにしてしまうのは、なんだかちょっとさみしい。
自分にとって大切なものを、自分の手でぎゅっと握っている沼井さん。彼女の言葉を聞きながら、ふとそんなことを考えました。
勉強、部活、就活、人間関係。何もかもを抱え込んで、いっぱいいっぱいになっていませんか。四方八方から聞こえる誰かの声に、惑わされすぎてはいませんか。
自分自身と向き合って、心の声に耳を傾けることも、時には必要な気がします。
たまには重たい荷物を置いて、ゆっくりと、のんびりと、ひとりで過ごす時間をとってみるのも、いいんじゃないでしょうか。
できれば、お気に入りのドリンクと、おやつなんかも用意して。
yuu coffee
■営業時間 火・水・金曜日の11:00~16:00(インスタグラムのアカウントから営業日を確認できます)
■住所 広島県東広島市西条下見6-3-26
■SNS https://instagram.com/yuucoffee_?utm_medium=copy_link
ライターだより
ドリンクが完成するまで店内で過ごす時の、日々の喧騒からゆっくりと遮断されるような、あの感覚。それが、yuu coffeeさんに私が足を運ぶ理由です。
取材後に飲んだカフェラテは、優しい味がしました。
カメラマンだより
人々が何かとせわしなく動いている現代。ひと息つくことを忘れてしまっていませんか?人混みを避けて休むことも大事です。ふんわりした室内と、沼井さんの優しさが、癒しの空間を提供してくれるお店でした。
【かいたひと】たかな / ライター
山口県出身。ときめく心を忘れずに生きたい。
【とったひと】ももち / カメラマン・人事
兵庫県淡路島出身。趣味は昭和歌謡鑑賞。特に1970年代の歌謡曲が好き。
倫理学を専攻にしたいと考えており、文化としての歌謡曲を倫理学的に考察することに興味がある。