聞き手:あんちゃん 写真:てるちゃん 編集:あかりん
新年を迎え、浮足立つような日々が去って少しずつ日常に戻りつつある今日この頃。
冬の峠に差し掛かり、新しい季節の予感に気持ちを弾ませつつも、一日の過ぎる早さに果たしてなにか置き去りにしてはいないかと少し不安になります。
そんなときみなさんには、心をそっと日常に留め置いてくれる、ほっとひと息つける場所はありますか?
少し季節をさかのぼり、これから始まる西条の長い冬に思いを馳せていた11月上旬のこと。冬物のコートを小脇に抱えて下見街道に面したかわいらしいお店にやってきました。
お店の名前はSea garden。プリザーブドフラワーを専門に扱うお花屋さんです。
お店の扉を開けると、店主の末藤さんが制作したお花たちが出迎えてくれました
色とりどりの花が所狭しと並べられ、「かわいい」とため息が漏れてしまいます
向かって左が末藤枝里さん
笑顔がとっても印象的な、seagaradenの店主さんです
お花が好きでお花屋さんに
― どうしてお花屋さんになろうと思ったんですか?
母が庭をすごく手入れするひとだったので、小さい頃からお花は身近な存在だったんです。
それで、西条農業高校で園芸を学んで、卒業後西条のお花屋さんに就職しました。お花が好きでお花屋さんって感じですね。
その後独立して、今年で8年になります。
― 下見にお店を構えられたのは今年の6月なんですよね。お店を持つきっかけは何だったんですか?
お店を出すまでは、様々な場所に出向いてフラワーアレンジメント教室を開催していました。
コロナ禍でイベントを開催できなくなった時、これからどうしようかなと悩んだのですが、一番下の娘が中学生になるタイミングでココだと思って。新しいことに挑戦しよう、お店を持とうと決断しました。
でも、ひとりだとここまでは絶対できてない。色んな所にご縁を頂いていたからこそ、円滑にオープンまで準備ができました。みんなが支えてくれて、力強く応援してくれたからだなって思います。
― 突然お店を持つ決断をするって、勇気もいるし大変だと思います。繋いできたご縁をとっても大切にされてるんですね。
もともとひとと関わることやひとを喜ばせるのが好きで。生徒さんやお客さん、お友達が私のことを支えてくれたから、そのお返しをさせてもらっていると思ってますね。私にはもったいないって思うくらい、周りのひとに恵まれてるんです。
想像をめぐらせて、お客さんに寄り添う
明るくとても謙虚な末藤さん。取材中もことあるごとに扉が開き、お客さんが訪ねてきてはお花を注文していきます。
「お待たせしてごめんなさいね」
そうやって私たちにことわって席を立ち、ぱたぱたとお客さんのほうへ駆けていきます。短いやりとりで要望を聞き取り、たくさんの作品を指し示してはお客さんのイメージに合うものを提案する。その後ろ姿は、どんなひとと話しているときでもとても楽しそう。
そんなプロの仕事を眺めていたら、素朴な疑問が湧いてきました。
― お客さんのリクエストをもらってから、どうやってアレンジメントに落とし込んでいくんでしょう?お花を作るときのコツも気になります。
たくさんお話をして、その上で作ってます。いつも来てくれているひとだとそのイメージが既に分かってるけれど、初めての場合は、お話しする中で自分の中でジャンル分けをしていく感じ。このひとはかっこいいのとかわいいのと、おしゃれなのだったらどれが好きかなって。
色の指定があった時でも、ピンクはピンクでもかっこよくするならえんじを添えてみようか、可愛いのなら白を合わせてみようか、とかね。
― かっこいいピンク……?いったいどういう注文なんでしょう?
ピンクがいいのだけれど、あげる相手は若い子じゃないんです!っていう時とか。
― なるほど!それってすごく難しくないですか?
難しい!(笑)。
だけどそのぶん、細かく調整してイメージに近づけたお花を見て「わー完璧!」とか、「イメージ通り!」といって喜んでくれるお客さんの姿を見ると嬉しいんです。
そのひとの気持ちに寄り添えたんだなって思える瞬間がとてもよくてね。
毎日のくらしを彩る
Sea gardenではお花を注文するだけでなく、末藤さんに教わりながらお花のアレンジ体験ができる教室も開催しています。今回は取材とあわせてフラワーアレンジメント体験をさせていただきました。
店内にある色とりどりの花。その組み合わせは無限大です。
「この花を使いたい、だけどどう組み合わせればいいのか分からない」という悩みには、そっとアドバイスをいただけます。
末藤さんとの話し合いを通して、作りたい花のイメージがどんどん広がっていく感覚でした。
お花の基本は“3” 。主となる3色を決めて、それに合わせて補助色を組み立てていきます。
壁から吊り下げるブーケ「スワッグ」は、選んだお花を形に気を付けながら固く結べば完成です。
自分の部屋に置きたいものをイメージして、ぼんやりとしたイメージを形にしていく過程は、
なんだか心が澄んでいくような気持ち。
完成後、ラッピングまでしていただきました。かわいい!
― お花に興味はあったけれど、すぐに枯れてしまうものを買うのはハードルが高いと思ってました。でもSea gardenさんに来たときに、ずっと美しいままで飾れるプリザーブドフラワーを知って、花を飾るハードルが低くなったんです。
お花を生活の一部として飾ってもらえると、私もとっても嬉しいです。
生花には「枯れてしまう」っていう魅力と儚さがありますよね。だけど、枯れないお花にもまたメリットがたくさんあるなと思ってます。遠くのひとに送ることができるし、もらったときのままずっと綺麗に飾ることもできますからね。
今回私は、自宅用にプリザーブドフラワーのスワッグを制作しました。
壁にかけたスワッグを、綺麗に見えるように形を整えて、角度を調整して、そっと手を離して遠くから眺めてみる。
すると、花のある一角から私の家らしさみたいなものが感じられて、なんだか嬉しくなったのを覚えています。
日々忙しい学生の暮らしのなかで、お花を飾る機会はそんなに多くはないかもしれません。だけど、お花を飾るという小さなひと工夫は、わたしたちの心をちょっぴり浮き立たせてくれます。
職業人として、娘として、母として
― ずっと気になっていたんですが”Sea garden”という店名の由来は何なんでしょう。
店を持つよりも昔に、手芸をしていた母と姉と一緒にワークショップをすることになったんです。そのとき三人の名前の頭文字を取って並べるとseaになって、「ちゃんと意味も通じる単語じゃん、じゃあついでに母が手をかけていた『庭』からガーデンもつけちゃおう」という流れで決まりました。
― 家族でつけたSea gardenという屋号があって、その名前を末藤さんのお店が引き継いだんですね。
はい。自分でお店を出す時も“Sea garden”という名前を絶対使いたいと思って。
あと、このお店のロゴも。お花が三つのデザインなんだけど、あれは母と姉と私なんですよ。
三つのお花が描かれたロゴと、家族で名付けた屋号
末藤さんの仕事の軸には、家族の存在があります
母が専業主婦で、本当におおらかな気持ちで育ててくれたんです。だから、自分がしてもらったみたいに子供達を育てたいなって思ってました。
8年前にフリーランスになったきっかけもそれかもしれないです。子供を最優先にしたくて起業して。でも子育てをちゃんとやったっていうより、勝手に育ってくれたような感じかな。そのなかで、上の子ももう成人して、子供とやりたいなと思うことはやったかなって。すごくいい経験を子供からもらったなって思います。
― 私自身、両親に色んな物をもらってここまで育ててもらって、今のところもらいすぎだなって思っていて、「子供からもらった」なんて、そんな考え方をしたことがなくてびっくりしました。でも、私の母も末藤さんみたいにそう思ってくれてたら嬉しいなって思いました。
お母さんはね、やりたくてやってるんだよ(笑)
職業人としての末藤さんから垣間見られた、自分を育ててくれた家族への愛と、巣立ちゆく家族への優しいまなざし。
まっすぐに語られた家族への感謝の言葉を聞いて、私を見守り育ててくれた両親の存在に思いを馳せ、おもわず胸が熱くなりました。
家庭や職場など、どんな環境でどんな立場にあっても、そばにいてくれるひとに常に敬意と感謝の念を抱き行動に表していく。
そんな素敵な大人の姿を末藤さんに教えてもらいました。
お花屋さんで、地域の居場所
― Sea gardenをどんなお店にしていきたいか、これからの展望を教えてください。
みんなに立ち寄ってもらえる気軽なお花屋さんです。とくに学生さんにもね。
自分も子供がいる身としては、お父さんとお母さんから離れるって本当にすごいことだと思うんです。
真ん中の子が来年から家を出るんだけど、最近ふとしたときに泣いちゃうの。応援したい気持ちもあるんだけど、いろいろ考えだすとなんだか心配になってくるんですよね。
多分広大生の親御さんとか、子供を県外に出している親御さんも同じ思いなんだなあと思うよ。
だからこそ、花を買わなくても、会いたくなったら来てくれる、「お花を見に来たよー」「どうぞどうぞ」って言えるような、ホームみたいなところがいいなって。
娘が遠くで頑張ってる。じゃあこっちでママはできることをやるねって思ってる。
― お店というより居場所みたいな感じなんですね。
そうそう。
今は、この店みたいな居場所が娘のところにもあったらいいなあって思って、そんな場所を作りたいと思って仕事をしています。
来てくれたひとがお花を見て癒されて、私とちょっとお話して、それで少しでも楽になったなあと思ってもらえたら嬉しい。
花屋さんは花屋さんなんだけど、みんなが寄ってくれる、帰ってきてくれる場所にしたいなあって思います。
末藤さんの根底にあるのは、自分と出会ってくれたすべてのひとに対する感謝の気持ち。自分の欲望を満たそうとなにかを求めて欲しがるのではなく、小さな出会いから芽生えた関係のひとつひとつを大切にすることで信頼と愛を積み重ねていく生き方からは、とても優しいのに芯の強さが感じられます。
今の私を形作るものは何か。これから私は何を身につけていきたいのか。
大切にしたいものがわかれば、速い時の流れの中でだって、進みたい道を迷わずに選べるはず。
末藤さんの言葉から、新しい季節の生き方のヒントをもらえたような気がしています。
Sea garden
住所:〒739-0047 広島県東広島市西条下見6-2-8 ビラージュ鴻の巣I 2号室
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜日・日曜日・祝日・不定休あり
連絡先:090-9415-1488
SNS:https://instagram.com/seagarden_eri?igshid=YmMyMTA2M2Y=
ライターだより
笑顔の秘訣を尋ねると、末藤さんが「楽しいからかな」と答えていたのがとっても印象に残っています。笑おうと努めるまでもなく、周りの人が優しくて愉快だから自然と笑顔でいられる、とのこと。いつも私を支えてくれるたくさんのひとに、あなたがそばにいてくれるだけで嬉しいんだって、そう言葉をかけたくなりました。
カメラマンだより
末藤さんの優しさと温かさと笑顔を感じることができた今回の取材。末藤さんに出会うことができたこと、そしてそんな素敵な取材の記事に僕が撮った写真を添えることができて本当に光栄です。
編集だより
ライターの想いで実現したこの取材記事。周りの方への感謝を忘れない末藤さんに出会えたこと、とても嬉しく思います。周りの人への感謝を忘れない大人になりたいです。
【かいたひと】あんちゃん/ライター
愛媛松山からやって来て、春から東京に行く。
誠実に堅実に毎日を積み重ねられるひとが憧れ。
【とったひと】てるちゃん/カメラマン
広島県出身で、初恋の車であるトヨタの80スープラが欲しくてたまらない大男。
特技は食べることとぼーっとすること。
Instagram→terumi1386