「べき」から離れてみえてきた、無理しない自分の選び方 / らくだ文庫  柴田 祥男・典子

 

聞き手:かおりん 写真:りょーま 編集:ばたけ

 

大学から田口に向かって坂道を下る、下る。
緑いっぱいの景色の中に、まっすぐのびる現代的でモダーンな建物が。
ここは誰もがほっと力の抜けるブックカフェ、「らくだ文庫」さん。

 

 

会社員のころから、本のルート配送をしていた柴田さん。
7年前ごろ、この建物を使い、工務店の方と共同で、本のある展示場を運営していた。
昨年秋、かねてから温めてきたブックカフェをオープン。

 

 

祥男さん  ブックカフェを始めて、直接選んだ本を置いてみて、それを買ってもらうっていうのが新鮮で嬉しいですね。
それまでは直接お客さんと話をすることもないし、売れる本だけ置いていくっていうかんじだったんだけど。
種類はそんなに多くなくても、これくらいの規模なら一個一個みてもらえるんじゃないかな、と。
お客さんは、本を読みにくる人だけじゃなく、話をしにくる人、色々。
今もまだ実験中なんです。

 

 

一杯のコーヒーで何時間も粘ると、店員さんの圧を感じることはないだろうか。
お二人がお客さんに一番してほしいことは、この空間で「ゆっくり」してもらうことだという。

 

典子さん  ゆっくりしてほしいんです。寝てもらってもいい。寝てる人がいるとちょっと嬉しいくらい。ああ、くつろいでくれてるっていうか。

 

祥男さん  こないだは開店からお店を閉めるまでいてくれたお客さんもおったよね。満足してくれたんだろうなあと思って。

 

典子さん  ドリンクとケーキしか出してないのに、ゆっくりしてもらってありがたい。

 

 

入店は15歳から

 

 

 

子育て世代の多い西条なのに…と思うかもしれないが、これはらくだ文庫ならではの「子育て支援」の形。

 

典子さん  主婦は家ではゆっくりできないんですよ。
気が休まるときも場所もなくって。ファミリーレストランやカフェもなんか違うなあっていうのがあって。

 

典子さんは、人よりも自分の時間が必要なほうだと感じるそう。

人がいるとペースを気にしたり気を使うので、自分が見たい、したい、楽しみたいと思ったものは1人で満喫したい。

 

自分があったらいいなと思う空間をつくったっていう感じです。
ここは理想の場所、ですかね。

 

祥男さん  それもあって15歳以上にしようかなって。全く子供が気にならない場所にしようかって。

 

典子さん  お母さんにもそういう時間や場所が、一箇所くらいあったほうがいいんじゃないかなって。
余裕がなくてイライラ、家でしんどい顔をしているのが、家庭に一番悪影響だと思うんです。

 

1人の時間は出かけるよりも、何かをいじっているのが楽しいという祥男さん。

んぼや畑、他にも家具を直したり…

 

 

働くことのスタンス

 

 

お店は現在火・水・木の三日間営業。

 

この頃はめっきり24時間営業の店が多くなった。
「カロウシ」の問題も話題になった。
毎日働かなきゃ生活できない?
「普通」の働き方じゃない?
お二人は働くことをどんなふうに捉えているのだろう。

 

二階のカフェスペースにはたくさんの「ひとり」席が。好きな席を選べる。

 

祥男さん  基本的に、無理しないんです。
無理してやってもやな顔がでるじゃないですか。
できる範囲でやればいいかねっていう。

 

典子さん  自分優先でという働き方をしている方が、余裕があるというか、そのほうが逆にいい仕事ができてるような気がして。
そういう働き方、最近周りにも増えてきているような気がします。

 

 

典子さん  最近、「努力はするもの」とか、「やったらやっただけ」というのも違う気がするというか。
長時間働いたから、練習したから結果が出る、みたいな考え方が変わってきているような気がします。もう古いのかな。

 

祥男さん  いいとこもいっぱいあるけどね。僕はもともと会社員だったんだけど、理不尽なことや、やりたくなくてもやらなきゃいけないことも多かった。
いやなら自分でしなきゃいけない、となるので、結局会社についていけなかったのもあって、自分でやるようになって。

 

 

祥男さん  働き方っていうと…食べていければいいのにねって思いますけどね。
いっぱい稼ぎたいってよりは時間が大事。
子供が生まれたときも家で仕事をしていたからこそ、そのときしか見えないものも経験できたので。今そういうことを思うとやめてよかったかな、と思いますね。

 

チュンチュンちゃん。

自分のペースで働くってとても憧れるけど、すぐに頭の中に浮かぶのは、
自己責任、才能、不安定、一般的…
やりたいことだけど、勇気がいる。

 

祥男さん  やってみたらなんか次が見えてくるよね。
やればどんどん変わってくんですよ。

 

 

祥男さん  会社をやめてまず、家が欲しいねって言って家を探して、そしたら安い物件が見つかって。それを直して遊んでたりしてると、こんな店ができたらいいね、とかやりたいことが見えてきて。
できることをやっていきよったら、景色が変わってきたというか。
ふしぎな感じよね。

 

典子さん  その時そのときやってみたいっていうのをやっていってたら、こんなことになっていた感じ。

 

 

典子さん  動けば動くほど、自分にとって何が大事で何がいらないかが見えてくるのかな。やりたいこと全部やらないと、動かないと見えてこないことなのかな。

 

祥男さん  考えりゃわかることかもしれんけどね。

 

典子さん  体験型なんです!とりあえずやってみる!

 

実際自分たちで家を改造してみて、見た目だけじゃなくて機能も大事だとことにも気づいた。

 

祥男さん  我慢してると長く続けることも難しいかもね。お店も、できる範囲で。

 

典子さん  家訓は「無理をしない」です。

 

大人になると、子供のときより知識が増えたり、家や仕事、守るものができたり。
やらなきゃいけないこともどんどん多くなる。
「仕方がない」は実は自分がつくっていて、自分のやりたいことを見えにくくしてしまっているのも自分自身なのかもしれない。

 

 

自分にとって大事なこと

 

 

お二人が作った減農薬の米。今、ランチで新米ごはんが食べられます。

 

祥男さん  会社で偉くなった人をみていると、子供や生活があればお金もいるし、いやなことでもやらないわけにはいかないことがありますよね。
そこしか頼るものがなければ、そうなってしまうのもわかる、でもそうはなりたくないなって。

 

典子さん  そうね、いやなことはいやって。

 

祥男さん  やりたくないことはやりたくない。
食べていけりゃいいやって。

 

お店の営業時間以外には、お米と野菜をつくっているおふたり。
最近は食卓の自給率が上がってきたという。

 

井戸水、薪、バイオトイレ…建物も強いイメージで。ライフラインが止まっても、

ここにくればなんとか過ごせる建物にしたかった。

 

典子さん  自給自足ができれば怖いものなしじゃないけど、食べれて、住めてが自力でできてたら、多分世の中がどんな情勢になろうが生きていけるのかなって。
ビクビクしない、不安にならなくて済む生き方ってそれなのかな。

 

足るを知る。

 

 

大人になるってどういうこと?

 

 

お二人の話を聞いていて、自分にとって大事なものは何だろう、と考えた。
そしてこれから、どんな大事なものができていくのかな。
大人になるっていうことは、働くこと?
大人になるっていうことは、できることが増えること?
大人になるっていうことは、楽しいこと?

 

最後に、お店に置いてある、吉本ばななさんの本にちなんで、
「大人になるってどんなこと?」
とたずねた。

 

典子さん  いろんなものを手放していくことのような気がする。
ちっちゃいころから、こうある「べき」、「しなければならない」が詰め込まれて。

 

 

典子さん  自分の中の正義みたいなものと違った時に、じゃあどうやってその人と仲良くするの?っていう葛藤があって。
そういうのにすごくしんどくなった時期があったんです。
その人にもその人なりの正しいがあって、でもどっちが正しいかは見方が違うだけのことなので、そっちもあるしこっちもある、でいいんじゃない?
緩められるようになって、しんどくなくなってきたっていうのはあります。

 

 

典子さん  こうある「べき」を手放していくことなのかな。
みんなを認めていけるような…。
器が広くなるってことでしょうか。

 

祥男さん  人と比較しなくなったときが大人なのかな。

 

 

祥男さん  例えば、悩みも大抵人と比較したときにできる。
いい学校、いい会社に入りたいっていう、競争社会で、誰かと比べなきゃいけない時代でもあったのかな。

 

 

祥男さん  うらやましいとかって、上を見ても下を見てもキリがないので、そういうのがなくなるとすごく楽。
周りを気にしよったらやりたいこともできないしね。
それが取れたときに成長できるというか、大人になるってことなのかな。

 

 

「大人になるってどういうこと?」
という質問は小さかったころにもしたかもしれない。

 

でもきっと今はそのときとは違う「なんで?」だと思う。
いろんな大人をみてきて、いろんな正解を知って、
自分で考えるようになって、自分の中に芯みたいなものもできてきて。
だんだん自分の直感ややりたいことを自分で見えにくくしちゃうことも。

 

自分の心地いい場所はなんだろう。
そういうゆっくりできる場所があったら、無理しなくてもいいかって思えたら、
「なんで?」の抱えた肩コリが、少し軽くなる気がした。

 

ブック!!!

 

ライターだより

来たときに机にいた三角の光が、気がつけば遠くへ移動しています。
らくだ文庫さんでの数時間はあっという間です。

 

カメラマンだより

人と比べるのをやめればいいんだよっていう言葉に元気づけられました。
知らないうちに、人と比べて生きてしまうため、そういうときにはらくだ文庫さんで好きなものの本を読んで自分と向き合いたいものです。
ありがとうございました。

 

 

 

らくだ文庫

〒739-0036 東広島市西条町田口1185-4
営業時間:12:00-17:00 木曜日定休
Facebook:facebook
instagram id:rakuda.bunko

 

 

【かいたひと】かおりん
ライター
三度の飯より米が好き。

 

【とったひと】りょーま/ライター&カメラマン

大分出身。主に人と話すか家でAmazonプライムビデオ、YouTube、TVerを見ている。暇さえあればプライム会員に加入させられるため注意。