「僕は地域の交差点」 地元を見つめ続けてきた新聞屋がみる西条の姿 / 小泉新聞舗 鈴木圭太

  

聞き手:のんの 写真:かんちゃん 編集:みやさこ

 

西条・酒蔵通りの入り口。白壁と赤瓦の町並みに溶け込むように、店を構える新聞舗があります。

 

小泉新聞舗。

 

明治の頃から現在まで、場所や外観を変えつつも、長きに渡って西条の地域に新聞を届けてきました。

新聞という形で地域に情報を伝える役目を果たす一方で、地域の方々が集まる場を「小泉サロン」として提供しています。

今回は小泉新聞舗の4代目である鈴木圭太さんにお話を伺いました。

 

8月末、台風が近づく中での取材。

人懐っこい笑顔と穏やかな口調が印象的な鈴木さんは、大変なときに来ましたねと、アイスコーヒーを出してくれました。

 

地域と新聞

 

小泉新聞舗 イースト

 うちは中国新聞の西条販売所なので、ここに毎朝新聞がトラックで届いて、折り込みチラシをはさんでから西条の各家に配っていきます。毎朝同じ時間に各家庭に新聞が届くというのは、当たり前に思いますけど、すごいことなんですよ。

 

――確かにすごいですが……実は失礼ながら新聞をとっていなくて(笑)

 

そうでしょうね(笑)。実際、若い方で新聞を購読している人は減っています。

 

小泉新聞舗 イースト

――これからも新聞を読む人は少なくなると思うんですけど、そこについてはどう考えておられるんですか?

 

新聞を読まなくなることって、活字離れがどうのとかそういう話じゃなくて、単純に情報の仕入れ方が変わっただけなんですよね。

 

――今はすぐネットニュースやSNSなんかで情報を得られますもんね。

 

そうなんですよ。だから、今新聞に求められているのは、人の考え方の部分だと思うんです。

新聞社の社風が伺えたり、考えの指針になるようなことが書いてあったりすると、若い人も新聞を読むようになるのかなと思っています。

 

――確かに、事実そのものを知るだけだと、少し物足りないですね。

 

なので、これからこの新聞舗は、そういう時代の変化に柔軟に対応しながら、小泉新聞舗という屋号を残していければいいなと思っています。その手段が紙なのか、webなのか、もっと新しい情報の発信方法ができるかもしれない。

 

小泉新聞舗 イースト

――小泉新聞舗さんは、本当にこの地域の方の暮らしに根付いたものを提供していらっしゃる印象があります。

 

そうですね。今インタビューしてもらっているスペースも、普段は小泉サロンとしてスペースの提供をしています。ヨガ教室とかやってますよ。

 

小泉新聞舗 イースト

 

「使い方を限定しない」場づくり

 

――ピアノからキッチンまで、なんでもありますね。

 

こっちから「こういう風に使ってください」っていうのなく、完全にフリースペースとして、使い方も地域の方々に任せています。だから、使い方を限定しないスペースにしようと心がけているんです。

 

――使い方を限定しないって素敵です。こういう場所、近所にあれば嬉しいかも。

 

行政の施設じゃなくて、地域の人間がやってるっていうのも大きいと思います。それこそ小泉サロンも先々代からあるので、地域の方々にもよく知ってもらってて。「小泉さんとこがやるなら安心」って言っていただけるのが嬉しいです。

 

小泉新聞舗 イースト Yeast

扉の向こうにはお茶室が。ここで茶話会が開かれます。

 

「僕はこの地域の交差点」

 

 ――情報を提供するのも、場所を作るのも、地域の方からの信頼があるからできることなんですね。

 

 そこは僕の誇りでもあり、大事にしているところです。だから地域の方々と関わるときも、なるべくフラットに接するようにしています。何かあったときに、ここを頼ってもらえるようにしたくて。

 

 ――それは心強いですね。

 

 僕は、自分のことを交差点だと思っているんです。小泉新聞舗は人と情報が行き交う交差点で、僕はその真ん中にいる。僕を介して、誰かが繋がってくれたらなと思う。

 

小泉新聞舗 イースト Yeast

 だから学生さんでも、「こんな人と話してみたい!」っていうのがあったら、僕に言ってください。

 この地域、結構面白い大人がたくさんいるんです。

 

人の生きるまち

 

 ――面白い大人の方、気になります。どういう方がいらっしゃるんですか?

 

 酒蔵に勤めている人や、外資系の企業に勤めてる人が夜な夜なまちに出て飲んでますよ。しゃべってみたら意外とすごい、みたいなおっちゃんがいたり。

 

あとは、同年代の仲間に熱い人が多いですね。7月の土曜夜市を企画したり。

 

小泉新聞舗 東広島 イースト yeast

山陽線が止まり、客足の遠のいた酒蔵通りに賑わいを取り戻した。

 

――お祭りを企画するなんて、パワフルですね。

 

きっとみんな同じような思いがあったんですよ。ちょうど僕たちの世代には小さい子供がいて……

 

yeast イースト 小泉新聞舗 東広島

 ……僕らの子供の頃に土曜夜市みたいなお祭りがあって、カンカン照りの日で、夕立の後のアスファルトの匂いとかがして。そういうのってすごく覚えてるんですよね。お祭りで、車道が歩行者天国になってて、車道歩けるってだけですごくわくわくしたり。

 

――すごくわかります!小さい時のお祭りの思い出って特別ですよね。

 

 そういった経験をさせてあげる場がないよねっていうことで、実行委員会のみんなが土曜夜市を企画して、自分も当日手伝いで参加しました。自分がしてもらったことくらいは、次の世代にしてあげたいですよね。

 

小泉新聞舗 東広島 イースト Yeast

――鈴木さんのお話をお伺いしていると、まちには人の思い出が詰まっているんだなとつくづく感じます。

 

 僕も昔は自分が住んでるまちを、なんでもないまちだと思っていたんです。ただの古い、狭い、不便な田舎のまちだって。白壁に赤瓦、赤煙突のまちを、なんでもないものだと思っていた。

 

yeast イースト 東広島 小泉新聞舗

 でも、最近すごいところに住んでるんだなって思えてきました。それは家業を継いだこともあるし、仲間と一緒にまちづくりに関わったりするようになったのもあるかもしれない。

 

 ――積極的にまちに関わることで、まちが立体的に見えてきた。

 

 そうですね。結局、自分で経験したことしか役に立たないと思うんです。実際にまちに出て、どんな人がいて、どんな話をして自分が何を思ったか、みたいな。

 

 ――全然自分とは関係ない人から言われてハッと気付くこともありますもんね。

 

 年代もバックボーンも全然違う人の人生に触れることは、このまちで得られる財産になると思います。

 それは僕たち地元の大人にとってもそうだし、学生さんにとってもそうだと思う。

 

小泉新聞舗 東広島 イースト yeast

「僕が市長なら、西条駅と広大間に無料バス出すのになぁ……」

 

 もしそういう機会があれば僕も膝付き合わせてお酒飲みたいし(笑)、そうやって地元の人間と関わった経験を、それぞれの地元に帰った時に生かしてもらえたらいいなぁ。

 

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「情報って結局、人ありきのもの」と鈴木さんは語ります。

新聞の記事にも、SNSの投稿にも、風が運ぶ噂話にも、その奥には必ず人がいる。
新聞屋でありながら、地域の人々が集まるサロンを提供する鈴木さんの言葉には、確かな実感が込められていました。

 

明日も白壁と赤瓦のまちに、小泉新聞舗のバイクが走ります。

小泉新聞舗 東広島 イースト yeast

ありがとうございました。

 

ライターだより

後日、新聞舗の三階にあるご自宅に招かれて、鈴木さんのご家族やご友人と共に食卓を囲みました。
鈴木さんのお母さんの手料理と、お父さんお勧めのお酒を頂きながら、和やかに盛り上がったお食事会。
地域に自分のことを見てくれている人がいる。
この心地よい安心感は、地元を見つめ続けてきた小泉新聞舗の鈴木さんだからこそ、感じさせられるのだと思いました。

 

カメラマンだより

今回取材させていただいた小泉新聞舗さん、使い方を限定しない、なんでもできる部屋。
活気のあるまちにはやりたいことがあるひとと、それを応援できるひとが必要なんだなと感じました。次の世代の子供たち、まちに住む学生や大人たち、に思いやりのある温かい方でした。

 

株式会社小泉新聞舗

住所:〒739-0011
広島県東広島市西条本町11-18
TEL:082-422-2259
FAX:082-422-7801
E-mail:koizumi@kamon.ne.jp
ホームページ:http://koizuminp.com/company

 

 

【かいたひと】のんの
ライター&編集&人事担当
京都出身。いつか鉄道ひとり旅をしたい。

 

【とったひと】かんちゃん
カメラマン兼WEBデザイナー。大阪出身。
写真を撮ること、人と話すことがとにかく好き。
人が気が付かない魅力や楽しさを探すことが得意。