「若いひとたちに野菜を届けたい」野菜を作るひとと食べるひとの想いを繋ぐひと / 地域おこし協力隊 田野実温代

     

聞き手:あゆ 写真:ゆーた・るなちょふ 編集:しんじ

今回の取材の舞台は豊栄町。
西条駅から北へ車で40分ほど行ったところにあるまちです。

 

 

こちらが今回お話を伺った豊栄町で地域おこし協力隊として働く田野実温代(たのみあつよ)さんです。若いひとに野菜を届けるため、「野菜のギフトボックス」を作ろうと活動されています。

 

田野実さんは、野菜や農家さんへの知識を深める為に全国の農家さんを訪問する旅を行っていました。東広島との出会いは、その旅の途中。以前yeastで取材させていただいたセントルマルシェの発起人清水さんと偶然にも関わる機会があったそうです。その中で、清水さんの地域への想いや考え方に共感し、いろんなご縁があっていつのまにか東広島に住んでいたそうです。

 

田野実さんと「食」のはじまり

 

ー 田野実さんは、なぜ若い人に野菜を届けようと思ったのですか?

 

 食に興味を持ち始めたのは、仕事で体を壊したことが始まりかな。大学卒業後、東京で就職したのね。そこから3年半会社にいたんだけど、その時体調を崩して会社を休むようになったんです。何度か復帰しようとしたんだけど、そこから働き続けることが難しくなってしまって。結局辞めてしまったの。

体調を崩してからは毎日体がだるくて、何を食べてもお腹が気持ち悪くなっちゃった。それでまず健康のことを考るようになって、食に興味を持ち始めたのよね。

 

ー 忙しいとやっぱり食に対する優先順位下がるんですかねぇ。

 

 

そうね。やっぱり「食」って時間がかかるじゃない?食べるためにお買い物して、料理もして、食べたら最後洗い物までしないといけない。当時は自分の体のことより「もっと頑張って働かなきゃ!」と思っていたんだよね。

 

ー すごく分かります……。私も大学1年生のときは食の優先度かなり低かったです。日々バタバタしている中で一日3食食べることの方が少なかったです。

 

今冷静にかんがると、元も子もないなと思うんだよね。なんのために人が働いてるのかって健康で幸せに暮らすためだったのに。私、どんどん自分を犠牲にしちゃって。

 

ー たしかに。

 

本当の本当に辛かったの。

 

 

あれこれやりたい性格で、会社の為にと思って色々抱えこんでしまった。会社のことも好きだったから尚更ね。でも身体を壊すと自分でもびっくりするくらいに何もできなかった。体が資本っていう言葉があるけどこういうことなんだな、ってそのとき思い知ったんだ。

 

ー 若いとなおさら余裕がないかもしれないですね。大学生1年生とか新社会人って新しい環境で良くも悪くもとりあえず頑張ろうと思っちゃうじゃないですか。

 

そうだよね。周りの同期を見渡せば、3食コンビニ弁当を食べる人とかも結構いるんだよね。私自身が苦しんだからこそ心配になっちゃった。私みたいになっちゃう、って。

だから、時間があれば勝手に友達の家に行って料理とかしてたんだよね。

 

ー 私がもしその友達だったら、すごい嬉しいですね。仕事から疲れて帰ってきたら、誰かの手作り料理があるなんて。

 

そう言われると嬉しいなぁ。その東京での出来事が「食で生きていこう!」と思ったきっかけかな。

 

食べる人と作る人、その間に。

 

ー なるほど。田野実さんは去年クラウドファンディングで集めた資金で全国の農家さんを訪れる旅をされていますがどういう想いで始めたんですか?

 

まず東京で仕事を辞めてから、料理教室を開こうとしたのね。みんなで美味しいものを作って食べることがやりたくて。ただ料理を作って楽しみたいだけならいいんだけど、健康にいい料理を作りたいと考えた時に、どんな野菜を選べばいいかが分からなかった。

わからないことは聞こう!と思って、最初は知り合いづてで農家さんの畑に直接足を運んで野菜について教えてもらったのよね。お手伝いしながら話を聞くうちに、野菜を育てる方法とか農業に対する考え方は農家さんによって全然違ってて。

 

 

ー 有機か無機か、作る野菜の種類など色々農家さんによって違いますね。

 

そうそう。でも何が1番の気づきかというと、とにかく頑張っている農家さんたちがいっぱいいたの。どの農法が正しいとか、この野菜が体に絶対いいとかは正直分からなかったけどね。

それを知ってから、目指す食との関わり方がちょっと明確になった。ただみんなで料理を作って楽しむと思っていたのが、野菜を作る人と食べる人の仲介みたいなことができたらいいなと思うようになったんだよね。

それで、もっと農家さんたちのことが知りたいなと思ってクラウドファンディングを始めたの。全国の農家さんたちを訪ねて、お手伝いしながら会話して。最終的には本を作りました。

 

 

ー 素朴な疑問なんですけど、たくさんの農家さんたちと出会っていく中で田野実さん自身が農家さんになりたいと思ったことはなかったですか?

 

それはね、よく言われる(笑)

けどね、私もみんな(取材陣)みたいに誰かの声を聞いてそれを届けるとか応援することがやりたかったんだよね。農家さんになったらその欲求は満たされないだろうな、と農家さん達に会う中で思うようになったんだ。

 

ー というと?

 

農家さんたちは野菜を作るプロなのね。ビジネスとしてどうやったら自分の野菜が売れるのかを考えている農家さんももちろんいるけれど、作るプロと売るプロじゃ考えることが全然違うでしょ。

 

ー たしかに。例えば洋服だったらそのときの流行に合わせたり、ブランドのイメージに沿って作ることができるけど、野菜に流行はないし、天候次第ではコンスタントに作れるものでもない。何より消費者との距離が遠いですね。

 

そう。みんなの気持ちがわかる人なんていないからこそ野菜を選ぶひとの視点に一歩下がって考えるひとがいるんじゃないかな、と思ったんだよね。食べたい人、作りたい人の想いがそれぞれにあるのは当然で、それを誰かが繋げばいいと思う。そんなギフトボックスにしたいね。

 

ひとりよがりじゃなかった

 

ー もっと地域を若いひとの力で盛りげていけたらいいな、と以前おっしゃっていましたが、実際一ヶ月ローカルな場所で活動してみてどうですか?

 

地域おこし協力隊って、いい意味でも悪い意味でもものすごく期待されるのね。この地域をどうにかしてくれるひとだ!って。

確かに、私自身やりたいことがあってこのお仕事に就いたんけど、そうはいっても一人では何もできないし、新しく何かを生み出すってやっぱりエネルギーが必要で。

そういうエネルギーって「何かやってくぞー!」っていうワクワク感から生まれると思ってる。そして、そのワクワク感は熱量が近い仲間がいればいるほど大きくなると思う。

 

一ヶ月活動してみて、そんな仲間一人でもいればいいなぁと思ったかな。

 

ー そのひとりってどうやって見つけるんでしょうね?

 

うーん、大学のときの話になるんだけど、大学生のとき文化祭が全然面白くなくって(笑)。友達と一緒にアイドルの真似事みたいに衣装作って、振りを覚えて、お客さん集めて公演したんだよね。思った以上にお客さんが盛り上がってくれたんよ。

これが熱量が同じ仲間と何かを達成する感覚を初めて体感した出来事だったんだよね。

ステージにいる時の高揚感とか、本番が近づくにつれてバタバタする感じも好きだった。

 

ー その友達とは偶然の出会いでしたか?

 

うん、本当にたまたま。でもなんでか上手くいったんだねぇ。今考えるとあのときの私ってひとりよがりじゃなかったなぁ。当時は、私のアイデアが上手くいった!って思ってたけどアイドルのことは友達の方が詳しかったから選曲とか任せてて、私は踊るのが好きだったから振りを教えたり。

 

 

きっと、無意識のうちに歩み寄っていたんだね。自分が自分がって思っていたけど、きっとそうじゃなかったんだろうな。

 

ー 単色と単色だったのが、一緒に作って目指すうちにグラデーションみたいに混ざったんでしょうね。

 

田野実さんのこれから

 

ー 田野実さんのこれからの展望を教えてください。

 

野菜のギフトボックスに関していうと、これからモニターの人に実際に野菜を詰めて送ってみてちゃんと商品として成り立つのか調べていこうと思っています。料理苦手な人でも調理しやすく工夫したり、荷崩れしないかとかね。

地域おこし協力隊としては土地の子になることが目標かな。

 

ー それは、豊栄に馴染んでいくっていうことですか?

 

うーん、ちょっと説明が難しいんだけど(笑)

例えばまちでイベントとかやるときに、デザインや料理と言えばあの子に頼んでみようって私に声がかかるようになれれば嬉しいなぁ。私を認識してもらうためには拠点もあったらいいなと思う。

あそこにいけば私に会えるみたいなね。豊栄には空き家がまだまだいっぱいあるので、その空き家に一つ灯りがともったら、なんかいいよね。

 

 

ライターだより 

 「私みたいになっちゃう」と忙しい同僚の体を心配するところや、頑張っている農家さんたちの存在に気づいて食べる人と作る人を繋ごうと思うところに田野実さんの性格が表れていて、私はそのいい意味でのおせっかいさがとても素敵だと思いました。ひとに心を素直に配ることができる、そんな人になりたいです。

 

カメラマンだより

 同じ目標を持った仲間。偶然出会ったようで、一緒にいるうちに無意識に同じ方向を向いて仲間になる。田野実さんのお話を聞いてそんな仲間の存在を欲している自分に気づくことが出来ました。またお話をしたいです!(ゆーた)

 

今回取材させていただいた田野実さんは、町おこしを目指して広報をされている。誰かに広げたい、知ってほしいという思いの元、活動されているところにmaholabo.の一員としてとても親近感を感じた。日常生活の中で「食」との向き合いを意識している人は多くない。だからこそ知ってもらうということは多くの苦労を要するし、うまく行かないことも多いのだろう。そんな中ではあるが、この将来的に価値のある活動を懸命になされている田野実さんの今後がとても楽しみである。ぜひ再び取材させていただきたい。(るなちょふ)

 

【かいたひと】あゆ

 編集長 / ライター兼広報担当
 広島大学総合科学部所属。出身は宮崎県。すきな食べ物は真鯛のおすしです。

 

【とったひと】ゆーた(Yut@)/カメラマン

知らないところを探検するのが好き。もちろんカメラをつれて。
家ではクラシックギターを弾いたり、本を読んだり、寝たり。
Twitter → @Yh_photo

 

【とったひと】るなちょふ/カメラマン

広島県尾道出身。大きな体で大きな心が目標。エモい写真が撮れた時のにやけは見られたくない。
instagram:@kism_hxy46