映画を通してまちに「宝物」を届ける / 「恋のしずく」瀬木 直貴 監督

  

聞き手:あゆ 写真:しゅるしゅる 編集:みやさこ

 


東広島西条といえば酒の都。そんな印象を持たれる方も多いのではないしょうか?
酒祭りの熱も冷めきらないままに、広島で先行上映を迎える「恋のしずく」。今回、メガホンを取られた瀬木直貴(せぎ なおき)監督に、ちょっとしたご縁でインタビューさせていただきました。

撮影場所となる地域、そこに住む「ひと」に自ら関わっていくスタイルで数々の映画を作製。今回は私たちが暮らす東広島で映画を撮影されたということで、監督の映画に対する考えを伺ってきました。

あらすじ

詩織(川栄李奈)は、ワイナリ―での研修を夢見ていたものの、決まった実習先は広島県の酒蔵だった。やる気のない蔵元の息子、病に伏している蔵元、厳格な杜氏や農家である蔵人に囲まれて実習を開始するが、詩織は失敗ばかりしてしまう。そんな矢先、蔵元(大杉漣)がこの世を去り、老舗の蔵が危機を迎えるなかで蔵元の息子(小野塚勇人)に初めての恋心が芽生える。日本三大酒処、東広島市・西条を舞台とした、心に染みわたる日本酒映画、誕生。

(公式サイト:http://koinoshizuku.com)

 

東広島の「ひと」から生まれたストーリー

——  「心に染み渡る日本酒映画」ということですが、お酒を題材にした脚本ができた時点で、東広島が撮影場所になることは決まっていたのですか。

いや、そういうわけじゃないですよ。
3年前に始めて東広島にきてから、ストーリが頭にうかんできました。
まちに出会って、物語ができていくので、最初にこんな映画を撮ろうっていうのはないんです。

——  その時に印象深かったエピソードは何かありますか。

あぁ、それはね。杜氏(とうじ)さんたちと話していたときに聞いた、お米と水が出会って、そこに神様が降りて来て、お酒ができるっていう話を聞いてたんですね。

それをもっと民俗学的に教えてもらうと、稲は雷が落ちると実をつけると言われていたらしいんですね。雨だけじゃなくて、稲光が重要なんです。それを聞いたとき、雷と雨と曇っていう、本当に自然が一体となっているのがお酒造りなんだなって思って。

 

——  その話を聞いた時に、西条で映画を撮ろうと決めたのですか。

そうですね。あとは、風景とか、酒蔵で働く人たちの心意気、知識。酒まつりを作っていく人たちや、酒蔵とは何も関係のない人たちが酒まつりを一生懸命やってて。酒蔵と酒まつりをフックにこのまちをなんとかしたいと思っている人たちの数や想いから、ここに決めました。

——  人の勢いですかね。

勢いというか、エネルギーの総量ですよね。熱量が非常につよかった。若い人たちが俺たちの手で、この街をっていうそういう気合いと熱量がありますよね。

 

「映画だからこそできる」監督が語る映画の可能性

——  西条の場合でいうと、酒蔵がアイデンティティというか、当事者意識として捉えている人が多い気がするんですけど。

そういう人もいると思いますけどね。
撮影をするにあたって、まちの人に取材するんですけど、一概にそうとは言えませんね。

——  そうなんですね。

酒蔵としてのまちではなくて、もっとマクロな視点から見ると、西条って、日本でも数少ない人口が増えているまちなんですよ。数年後にはダウンしていくんですけど、それでも維持できてるっていうのはポイントですよね。

僕は人口が増えているうちに交流人口を増やすことが大事だと考えていて、映画がその一つのきっかけになればと思っています。

——  それは、映画を作ることで、県外の人が足を運ぶようになるということですか。

うん。例えば、この映画で公開オーディションをしたんですけど、参加者の3分の1は泊まりがけで県外から来てるんです。そういう人たちって、宿泊だけじゃなくて、ご飯も食べるでしょ。それでだいたい一人あたり15万円以上お金を使ってることがわかってるんですよね。

それが300人くらいいるとすれば、このまちに相当のお金を落としていくことになるんですね。微々たるものかもしれないけど、やっぱり経済効果って大切な指標だと思います。こういう繋がりを作ることも意識しつつ、映画をつくってます。

 

——  この映画の位置づけとして、地方創生ムービープロジェクトという言葉があるのをみて、どうやって映画で人を呼び込むんだろうって思ってました。参加者を募ることで人を呼び込むんですね。

そうですね。でももちろんそれだけじゃないですよ。
今回、「恋のしずく」っていうお酒が、東広島の9つの酒蔵から販売されるんです。みんなちょっとずつパッケージが違ってて。これがなかなか可愛いんです。

広島市の創業1869年お酒専門店・大和屋酒舗のオンラインショップでも販売されています!

他にも、映画のストーリーに出てくるお酒を商品化して、計12種類のお酒ができるんですよ。それが全部売れたとすると、8200万円くらいの収益になるんです。その90%くらいは、全部地元の人にかえるんですね。お酒のラベルを印刷した会社とか、酒蔵とか。

——  それは映画だからこそ、できることなんですか。

そうですね。映画はちゃんとしたものをつくれば、時間がたっても残り続けるメディアですから。持続可能な形で資金が地方にかえって来る仕組みを作らないといけない、と思ってます。

 

「監督」が『まち』を撮り続けるワケ

——  公開まで約2ヶ月となりましたが、どういった気持ちで公開の日を待っているのでしょうか

監督としてはですね、ただただ恐ろしい感じですよ。(笑)

 

——  へぇ…(驚き)

というのも、自分の中で企画ができた時は、頭の中にパーフェクトなイメージができているんですね。でも実際はその通りにはいくわけがないんです。

至らないところもわかってるし、映画というものは、その中でもがきながら生まれた表現物なんです。だから、その完璧でないものを見てもらうまでの半年間は恐怖ですね。

——  想像していたものと全然違う答えでした…(笑)

そう。映画を撮り終えて、今の気持ちをひとことお願いします、ってよく言われるんだけど、映画を作っている時は苦悩の連続だから、あんまり答えられないんですよね(笑)

——  苦悩の連続とはどういうことですか。

最初にパーフェクトなイメージができた時が、最高に楽しいんですけど、そこから胃に穴があくくらい苦しい思いをして脚本を書くんですよね。映画作成って過酷な日々ですよ。

——  そんな苦しい状況のなかでも、次から次の作品に向かっていくと思うんですけど、映画を作ることでの嬉しさはありますか。

もちろん、楽しいこともありますよ(笑)。カメラマンさんたちがその日の撮影にぴったりのレンズを熱く語っているのを見たり、自分のイメージを超えた演技が出たり、あとは、地域のみなさまが炊き出しをしてくれたのもすごく美味しかったです。

あとは、映画を作るといろいろな賞を頂くことがあるんですけど、何よりも関わった皆様がすごく喜んでくれるんですね。その表情を見た時がすごい嬉しいんです。

 

——  「映画をきっかけに地方の役に立てれば」とおっしゃってましたが、常にそのように考えられているのでしょうか。

そんなことはないです。

まちに関わっていくうちに、磨けば輝く原石みたいな小さな宝物が見つかるんです。
地元の人たちはこの街には何にもないなんて言って、意気消沈してるんですけど、ちゃんと希望の光があるんですよっていうと、目の色ががっと変わってきて。

結局、恋と一緒で、まちに出会って、そこが好きになったらどうしようもないじゃないですか。それだけなんですよ。

——  それはまちの人が好きだからですか。

それもありますし、この人たちとなら一緒に何かできるなと思って、映画作りを始めるんですよ。一緒に山を登りましょうって感じですね。

 

瀬木監督の愛が詰まった「恋のしずく」、広島では10月13日に先行上映されます!ぜひ映画館に足を運んでみてください!!

 


ライターだより


そのまちの磨けば輝く原石を拾い上げて、その原石をもとに映画を作る。関わった人たちは完成した映画を見て感動して涙を流す人もいる。そんな素敵な贈り物を届ける監督の原動力は「まちを好きな気持ち」。私も東広島を好きで好きでしょうがなくなって、何かを届けたいと素直に考えさせられました。おわり。


カメラマンだより


何かを創り出していくとき、「このひとたちと一緒にやっていこう」と考えられるのは素敵だと感じた。楽しいときも辛いときも、どんなときでも真剣に向き合っていくその気持ちは、恋そのものだと思う。私も、写真を通して、ひと・もの・まちに向き合っていく!

 

【かいたひと】 あゆ
ライター&広報
広島大学総合科学部所属。出身は宮崎県。すきな食べ物は真鯛のおすしです。

 

【とったひと】 しゅるしゅる
カメラマンたまにライター
カメラと写真が大好きで、最近はポートレートを撮りたくてうずうずしている。
好きな食べ物は嚙みごたえのあるもの。特にイカが良い。
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